マガジンのカバー画像

童話「ぼくはピート、そしてレイじいさん」

28
短編の連作童話です。全27話。最後に「あとがき」も。 魔法を使わない魔法使いのレイじいさんと少年ピートくんの物語。 グリーングラス島の人たちと動物たちと共に、成長していくピートく…
運営しているクリエイター

2022年6月の記事一覧

ぼくはピート、そしてレイじいさん 第22話

第22話 「あてのない始まり」 レイじいさんが「旅に出よう」と言った。 「どこへ?」 と僕が聞くと 「あてのない旅さ」 と答える。 いつもと違う旅なのだ。 レイじいさんは、 魔法の笛だけを持っていくと言った。 今まで見たことのない古い笛。 本物? と聞くと、 プーと吹いてみせた。 僕は何も持たないことにした。 これと決めると、 あれもこれもとなってしまうからだ。 そうして、 僕たちは、 家のドアを閉め、 外出中の札を下げ、 出掛ける。 明日の朝には 戻って

ぼくはピート、そしてレイじいさん 第23話

第23話 「命の赤い花」 「あの赤い花を最後に見たのはいつだったか・・・」 レイじいさんが 五度目のうわ言を言った時、 僕は、 赤い花を探しに行かなくてはと思った。 赤い花といっても、 どの赤い花か、 レイじいさんに聞きたくても、 熱で途切れ途切れの息をするばかり。 ドクターペルさんは 「今、島中流行りのコード風邪ですな。 こじらすと危険だ。 ピートくんも気を付けて」 と言って、 次の患者さんの家に向かった。 僕は迷った。 一時間の内に 戻ってくれば ・・・けれ

ぼくはピート、そしてレイじいさん 第24話

第24話 「ドアの外」 平和の風が吹き荒れていた。 レイじいさんは、 一日中、窓の外を見ている。 僕には、 何かが分かりかけていた。 レイじいさんは、 翌朝、鐘の丘に登り、 塔のてっぺんの鐘を鳴らした。 島中の人々は驚く。 鐘の鳴る時は、 百年に一度。 島は、 大きく変わる時だった。 「平和の次に来るものは何だい?」 レイじいさんの問いに、 僕は、 硝子の中にある宇宙を考えた。 僕は、 硝子を割る。 粉々に砕けたかけらは、 星のように 美しく尊い。 「

ぼくはピート、そしてレイじいさん 第25話

第25話 「透明な意識の本」 真昼の太陽の真下で、 ある人に出会った。 名前はラブルという、 女神のような人だった。 その人から、 透明な分厚い本をもらう。 表紙は、 透明な中に 生きたままのバラの雫が光っていた。 そして、 ページをめくる度、 ぴららぴららと音がした。 「これには、何が書かれているの?」 「ピートさん。 それには、 書かれていないものが書かれているのよ」 僕は、 ピートさんと呼ばれたのは初めてで、 少し恥ずかしかった。 書かれていないものが

ぼくはピート、そしてレイじいさん 第26話

第26話 「予感の音」 曇り空の下を歩いていたら、 ニルンの高い木々の間に 先の尖った塔が見えた。 今まで気付かなかったのは、 そのニルンの高い木のせいなのか 霞むような塔の色のせいなのだろうか。 近付くと 塔の周りは深い緑の生け垣で、 中を見ようとしても 葉と草が邪魔をする。 塔は 離れて見ると 霞み 近寄ると 見えなくなるのだ。 僕は ぐるりと その生け垣の周りを歩く。 すると、 どこからか ピアノの音が聞こえてきた。 風のなびく音と混ざりあって 一音一音

ぼくはピート、そしてレイじいさん 第27話(最終回)

第27話 「その時」 「とうとう、その時がやってきたらしいな」 レイじいさんが静かな顔で呟いた。 僕には分かっていた。 とうとう別れの時だ。 レイじいさんは、 きっと あの島へ行ってしまう。 「分かっているだろうが・・・」 僕は頷いた。 レイじいさんは、 とうとう習得したのだ。 「人生における全てのことは、 まだ分かってはいない。 だが、ピートくん。 人間も動物も植物もこの島も一緒だ。 原理は一緒なんだ。 だから、それで、その・・・」 「分かってるよ。 さ

ぼくはピート、そしてレイじいさん (あとがき)

一つの作品の連載が始まり、 そして、それが、終わる時、 何だか、寂しい気持ちになります。 登場人物たちとお別れしてしまう気がするからです。 でも、 いつだって、読み返せば、 いえ、 思い出すだけで、 登場人物たちと会うことができるのだから、 別に、 寂しく思わなくてもいいのでは、 とも考えるのですが。 たぶんですが、 いえ、 たぶんではなく、絶対に、ですが、 このメルマガを通して、 読者の方々と繋がっているから、なのだと思うのです。 ほぼ同時に、読者の方々と読んでいる、