見出し画像

ぼくはピート、そしてレイじいさん 第27話(最終回)

第27話 「その時」


「とうとう、その時がやってきたらしいな」

レイじいさんが静かな顔で呟いた。

僕には分かっていた。

とうとう別れの時だ。

レイじいさんは、
きっと
あの島へ行ってしまう。

「分かっているだろうが・・・」

僕は頷いた。

レイじいさんは、
とうとう習得したのだ。

「人生における全てのことは、
まだ分かってはいない。
だが、ピートくん。
人間も動物も植物もこの島も一緒だ。
原理は一緒なんだ。
だから、それで、その・・・」

「分かってるよ。
さよなら、でしょ」

「そうだ。
さよならだ。
全てに」

「いつ行くの?」

「どこへ?」

「だって、
さよならでしょ?」

「違うよ。
ピートくん。
全てにさよならだが、
どこかに行くわけではない」

「どういうこと?」

「ピートくんは、
もう、そろそろ一人前の準備をしなきゃならん。
そこで、
魔法を一つ教える」

僕は驚いた。

けれど、
レイじいさんは、
お構いなしに、
僕の右手を取り、
呪文のような声を出した。

僕は、
魔法をかけられる。

僕は大人になり、
大人的になり、
大人らしくなる。

僕は、
空を飛び、
僕は、
空を走り、
僕は、
空を突き抜ける。

僕は、
魔法だ。

「ピートくん。
君自身が魔法なんだ。
魔法を使わない魔法使いなんて
いると思うかい?」

「いるよ。
ここに。
レイじいさんが」

「わしは、まだまだじゃ。
修行が足りんのじゃ」

「あの・・・
習得してないの?」

「まだね。
それでじゃ、
ピートくんのために、
魔法を一つ」

レイじいさんは、
消えた。

どこかへ。

どこにも行かないと言ったのに。

僕は、
途方に暮れる。

レイじいさんの気配・・・

気配がする。

僕は、
上を見た。

レイじいさんは、
空になっていた。

魔法だ。

僕は手を伸ばす。

一緒に空になる。

「一生、修行の人生じゃ」

僕たちは、
学ぶことが多い。

これからもずっと。

きっと。

ずっと。





おしまい。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?