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【連載小説】満開の春が来る前に p.5

新聞配達のバイト君が奮闘するミステリー小説です。

「満開の春が来る前に」p.1は【こちらから

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「そうだねぇ、だいたいは毎朝ジョギングしてる人がついでに受け取ったりとか、もらった新聞と一緒に会社へ行く人とか……、そんなものだね」

「そう、ですよね」

 俺もそれは考えたが、どうやっても彼女はそれに当てはまりそうにない。

かといってそれ以外の納得できそうな理由もない。単なる彼女の気まぐれなのだろうか。

すると太一さんがわざわざ俺に後を任せて辞めていったのにも、特別な理由なんてないのだろうか。

「あぁ、後は……」

「小山内さん?」

 俺が再度、小山内さんに目を向けると、にっこりと微笑まれた。

「待っているのは、新聞じゃないとか、ね」

「え、それって……」

 どういう意味ですか。もう一度質問をし直そうとした時、何人かのバイト生がぞろぞろと入ってきてしまい、俺は口をつぐんだ。

 それはどういう意味ですか、小山内さん。

 気が付くと彼女の家に咲いていた寒桜は、すっかり盛りの時期を終えているようだった。

昨夜にも降っていた雨のせいで余計に大きな花びらがまばらに落ち、道路を薄紅色に染めていく。

 今日も彼女は変わることなく玄関先に立っていた。ぽつんと立つビニール傘を持った彼女の姿は、もはや見なれてしまった光景だ。

変化していく景色に反して、彼女だけは時が止まったようにそのままだった。

 今日はもう、聞いてしまおうか。

 彼女が毎朝待っているその理由を。

「あの、」

「はい?」

 振り返った彼女の無害な笑顔にためらいそうになったが、思いきって言葉を投げかける。

「どうして、毎日待ってるんですか」

「え?」

 彼女がいかにも不思議そうな、きょとんとした顔をする。

 やはり、まずいことを聞いてしまったのだろうか。遅いとは分かっていながらも、慌てて付け加える。

「いや、あの、言いたくなかったら、言わなくてもいいんですけど……」

 薄れていく語尾が、自分のことながら情けない。

 少しのあいだ彼女は目を丸くしたままだったが、そんな俺を見ておかしそうに笑った。それに合わせて彼女の長い髪が小さく揺れる。

「そんなに焦らなくても大丈夫ですよ。確かに、私みたいなのが大して読みもしない新聞を待ってたら、おかしいと思いますよね」

「いえ、そんなことは……」

 相変わらずしどろもどろな返答になってしまう。もう穴があったら入りたい気分だ。もっとさらりと聞ければよかったのだけれど。

 しかしこうして彼女が笑っているところを見て、はじめて澤平が言っていた意味が分かった気がする。

確かに今までの彼女は、今の楽しそうな表情からすればどれも固かったように思える。これが彼女の本当の顔なのかもしれない。



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