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生態系を乱さずお庭作りをしたいなら『小さなビオトープガーデン』がおすすめの一冊!

ガーデニングをやっていると色々な園芸種をお庭に迎えることが多いかと思います。でもそれって生態系を乱すことになってしまうのでは?という疑問を持ってガーデニングが捗らないことはないでしょうか?せっかく楽しい園芸をやりたいけど、それが自然に負荷をかけてしまうのは嫌だという気持ちは大事です。

かなり古い書籍ですが、『小さなビオトープガーデン』(泉健司、主婦の友社、2007年8月20日発行)という本はその疑問に一つの答えを与えてくれる本ですので、ここで紹介したいと思います。

「庭やベランダで水辺の花と生き物を楽しむ!」というフレーズが表紙に書かれていますが、水辺の植物に限らず、野菜やハーブ、果樹を取り入れたお庭なども含めて総合的なお庭作りについて掘り下げて紹介してくれている本です。

一冊を通じて貫かれているのは、トンボやチョウなどの昆虫や鳥といった様々な生き物を呼び込める庭が理想的な庭であり、植物も動物も敵視しないというのが基本姿勢です。害虫は殺虫剤でなく天敵を利用した対策が推奨され、野菜の栽培には生き物のために多めに植えるよう勧められています。雑草すらナチュラルガーデンに取り入れることも提案しています。

それでいながら、日本風のお庭、英国風のお庭、日陰のお庭、ロックガーデンにウォーターガーデンといった様々な庭の作り方まで一通り紹介してくれており、至れり尽くせりといった感じです。

さて、この著者は生き物と敵対せず、生態系を庭に取り込むことを重視していますが、そうなると気になるのが冒頭の疑問です。元々この地域にはいなかった園芸種を庭に取り入れてしまって、地域の生態系が混乱してしまうことはないのか?という疑問です。

詳しい著者の考えは本書を実際に読んで確かめて頂きたいのですが、簡単にまとめると答えはこうです。

個人の庭には下手に野生種に手を出さずに、生産性の高い園芸種を積極的に利用すべきだ、というものです。むしろ、手に入りにくい野生種が売られている場合、どこからどうやって連れてこられたのかが分からないことも多く、乱獲による生態系の破壊や遺伝的な地域差の撹乱を招く恐れが高いと指摘します。

また、園芸種の方が鑑賞価値や食糧生産性が高く、育てやすいものも多く、なおかつ自然界において野生種の役割を代替することも可能であるため、園芸種の利用をすべし、という主張です。加えて、園芸種の方が野生化しにくく野生化しても野生種との区別が容易で管理しやすいという利点も挙げます。

そう、生態系への配慮を考えると、つい園芸種よりも元からある野生種の方がナチュラルな気がしてしまいますが、著者は個人が担うには生態系の保全、種の保存はあまりに複雑で難しいとし、メダカの例を出して戒めます。園芸種の方がうまく利用すれば、人間にとっても生き物にとっても有益だという点は意外かもしれません。

ナチュラルガーデンへの支持が広がる昨今ですが、そのナチュラルの意味合いや種の多様性、自然との共生のあり方まで深く掘り下げて考えることはあまりないのではないでしょうか。単に自然風に見えればそれで良いのではなく、生き物も人間と一緒に憩う事ができる庭が最も無理のない庭なのかもしれません。

本書は、そんな自然との共生についてじっくり考え実践する指針を与えてくれる貴重な本です。タイトルだけ見ると、単にビオトープガーデンの作り方を教えてくれるだけの本に見えますが、実は著者の深い思索に触れることができる点も読み応えを上げています。これからガーデニングを始めたいという方がその心得も含めて学ぶのにも適していますし、ただのハウツー本のようなガーデニング本には飽きたという方、ガーデニングを極めたいという方にもおすすめできる良書です。

ちなみに、園芸種であってもあまり生き物には好かれないタイプの草花もあるそうです。それがどんなタイプのものなのか、気になる方はぜひ本書を手に入れて確かめてみてくださいね。

最後に、本書は2007年の発行です。つまり、もう中古でしか手に入らないと思われます。でも市場にないわけではありませんので、頑張って探してみてください。(本記事執筆時点ではAmazonに出品されていました。)

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