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ドラマ「東京タワー」展開に思うこと(原作ネタバレあり)


原作「東京タワー」の透→詩史さんへの心酔具合

ドラマ「東京タワー」3話を見終えて4話の予告を見たとき、あれ…?という違和感を覚えた。
特にこのモノローグ。

「この胸の痛みを捨てられたら、どんなにいいだろう…
彼女のことを 好きになれたら…」

ドラマ「東京タワー」4話より

原作を読了し、原作の透の詩史さんへの強烈な心酔具合を感じていたため、このモノローグは違和感でしかなく。
例えば、原作には次のような言葉たちがある。

詩史さんに与えられる不幸なら、他の幸福よりずっと価値がある。

透にとって、世界は詩史を中心に構成されている。

詩史以外の何一つとして、透を幸福にはできないのだった。

透には、詩史以外何もかもどうでもよかった。詩史がすべてだった。

江國香織「東京タワー」より

透は、どこにも属していない自分をはじめて発見したし、その、本来の自分ともいうべき自分でいることが気に入っていた。
自然で自由で幸福だった。
そして、その自分は詩史さんによって存在させられている。

江國香織「東京タワー」より

透にとって詩史さんは、最初から最後までずっと、ひとつ残らず揺らぐことのない存在で、どれだけ傷ついても、苦しくても、詩史さんから離れたい、と思うことはなかったように思う。
だからこそ、「彼女(ドラマのオリジナルキャラクターだ)を好きになれたら…」という透のモノローグにとても違和感を覚えたし、透はそんなこと思わないのでは?というのが正直な感想だった。

詩史さんを好きなことに幸福を感じていて、きっと詩史さんになら痛みを与えられてもそれすらも不幸ではないって思うんじゃないかなと。
詩史さんから与えられるものすべてを抱えて好きでいることに幸福を覚えているというか…それこそ”透には、詩史以外何もかもどうでもよかった。詩史がすべてだった。”ということなんだと。

原作ありの作品に思うこと

ドラマ化する上でオリジナルキャラクターを登場させることは必ずしも悪くはないし、それによってより作品に奥行きが出たり受け取り方が広がったりすることも多くあるけれど、それでも今回の透の事を好きな同級生の女の子、という役柄が必要だったのかについては少し疑問を感じてしまった。
彼女を通して「不倫なんて健全じゃない、幸せになれない」と客観的な意見を透に与えることは悪くないけれど、その上で透自身の感情を「彼女を好きになれたら…」まで動かしてしまうのはどうなんだろう…と残念だった。

原作がある作品を映像化するときに、物語の肝というのか、大事なところは間違えずに描いてほしいという思いがあって、今回でいうと透と詩史に関してはふたりの世界だけを描いてほしいし、(だからこそこのふたりはある種のファンタジー感があると思っている)透は詩史のこと以外に気持ちを揺らがせることがない、というところを描いてほしい。
透は詩史以外、そのほかのものを雑音だとすら思っている節がある。詩史に対して心酔し、紛れもなく恋に溺れていて、その気持ちだけは揺らがない。
詩史もはじめは少し遊びのような、少し軽い感覚もあったように思うけれど(特に原作では17の透と関係を持っている)
気づいたら透という存在を手放せなくなっているという、そんな感情に移り変わっていく様を見たい。
詩史もまた、かなしいくらい透の存在に人生を動かされている。

原作の詩史の台詞で印象的だったものがある。

「信じてくれなくてもかまわないけれど、私はあなたが大好きよ」
「自分でも信じられないわ」

江國香織「東京タワー」より

詩史は、原作でもドラマでも、掴みどころがなく、本心を理解しにくいキャラクターであるけれど、決して透をもてあそんでいる訳ではないし、飄々と堂々として見える詩史も、きっとこの恋をどうしていいのかわからないのではないか、とすら思う。
気づいたら、いつのまにか。
自分が思うよりも心の中に透が居座っていたのかもしれない。

ずるいところもたくさんある詩史だけれど、ドラマではよりどうして?と思うような行動に見えるように描かれている気がする。
たとえば、詩史が透の母親に透と会っていることを話してしまっていた、という場面。
これはドラマでは一線を越えたあとの話だったので余計に視聴者に「なんで言っちゃうの??」と思わせたけれど、原作では詩史が透の母親に透と会っていることを伝えたのは、まだ身体の関係がなかったとき。
そしてその後透は、(身体の関係を持っている今なら、そんなことは言えないだろうな)というようなことを思う描写がある。

なので、ドラマでは詩史さんがより何を考えているかわかりにくい存在に見えて、少しかなしい。

透が詩史さんの夫と3人で食事するシーンもないし、「詩史さんひどいなぁ」と思う場面が原作にはないものが多く、それは残念に感じる。

最後まで見届けたい推しのこと

私は永瀬担なので、推しの覚悟をもってのぞんでいる作品を大事に見守りたい気持ちが強すぎて、作品としてここは残念だなぁというところも感じてしまって色々と思うところを書いたものの、それでも最後まで見届けたい気持ちは強い。

江國さんとの対談はとても興味深かったし、透と詩史にモデルはいなく、「はじめて実物に会えたような気持ち」と言っていただけたのはすごく嬉しいなぁと。

透と詩史、ふたりの関係の行く末を、はらはらしながらも、見守ろうと思う。

(それにしても今回の永瀬廉はいままで見たことない永瀬廉の表情を更新してきていてそれはものすごく嬉しくて最高)

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