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あんこは優しさの生き写し

本当、寒くなってきた。

日中でも、外を歩くと、みるみるうちに手先の体温が奪われ、ググっと手を握る。

そんな時、ある日、道端にたい焼き屋さんがあった。
ご飯を食べるのを忘れてて、お腹も空いてたのでフラっと立ち寄った。

たい焼き屋さんは、こじんまりとしたお店で、焼いてる姿はやり取りする窓越しに見えるか、見えないか。大きな型ではなくて、一枚一枚焼く型が何個か見える。

袋に包まれたたい焼きは、香ばしい香りがしていて、一口かぶり付くと、薄い生地の中から温かなあんこが口いっぱいに広がった。小豆の自然が感じられる甘味に身体が温かくなる。

あんことは、どうしてこうも優しいのか?と思った。

そこはお店の店主さん一人で全ての工程をされているそうだ。
以前観た、映画「あん」を思い出す。


この映画、素敵なんだ。

この映画に出てくる人たちって、みんな、訳ありというか、普通とは違う所に片足を突っ込んでる感じ。そういうのを胸に抱え、それでも生きている。だから、とても優しい。この映画の映像自体、優しさに溢れている。

中でも、主演の樹木希林さんが演じる「あん」づくりをし続ける徳江という人の生き方。どんな環境にあっても真っ直ぐに、誠心誠意込めて、作る「あん」。

それは彼女を自由にする翼でもあり、持っている傷を露にする矢にもなったり……だけど、ラストは彼女の作る「あん」が彼女の世界も、周りの人の世界も変えた映画だった。

景色と合わせて、フワッて思い出す作品って、やっぱり自分にとっては好きな作品だからなんだと思う。

というか、「あん」って、やっぱり作り手が出る食べ物だと思う。

一度作ったことがあるけれど、工程が長い。
ひたすら火に当て、水分を蒸発させながら混ぜ続ける。
そこをサボれば、味が台無し。

また、砂糖の加減で味がガラッと変わる。
入れ過ぎると、下品な印象。
程良いと、上品な印象。
……まるで貴婦人か何かみたいな例え。

でも、手をかければかける程、おいしくなる。

つまり、作り手の優しさが詰まった食べ物だと私は思っている。


寒い日だったから、つい思い出した。

人の優しさとは、案外気づきにくいものなのかもしれない。

あの映画は、どら焼きだった。
口に加えた寒空の下のたい焼き……。おいしかった。

出会ってくれて、記事を読んでくれて、ありがとうございます。演劇をやっています、創るのも、立つのもです。良い作品を届けれるよう、日々やって参ります!