東京日記〜東京で、日本の縮図を見る
就職の面接で東京に来た。
最終面接だ。緊張している。
片道4時間の移動はなかなかにキツく、落ち着いて臨むために前乗りすることにした。旅行会社を通じて、新幹線とセットになっている格安ホテルを予約。これがまたとんでもないところだった。
「ビジネスホテル」とは名ばかりである。その実、狭小ワンルームマンションを改装した狭小ホテル。「全室ミニキッチン付☆」とは、なるほどうまいこと言ったものだ。
フロントは9時~18時まで。「すみませーん。す、み、ま、せーん!」と声をかけた。開いたドアから制服姿の背中が見えている女性は、ぴくりとも動かず、返事もしない。しばらくして、奥からスーツを着たヨーロッパ系の青年が出てきた。
東京のフロントには、日本語がペラペラの外国人がいるのかあと思ったら、この青年、かなりしっかりめのカタコトだった。単語や文法は合っている(とても勉強したのだろう)のだが、発音に難がある。からかっているわけではなく、聞き取りが難しい。
『ゼンハクなければジータクとかいてくだサイ』
「イー…?何を書きますか?」
青年は「前泊」の欄を指して言った。
『ジータク』
自宅だった。
衣類や化粧品を、事前にホテル宛に送っていた。
荷物はすでに部屋に上げているという。ありがとう、とても助かる。
明朝、ホテルから荷物を発送できるかどうか尋ねると、
『ユー…pack?ならデキマス』
と教えてくれた。packの発音が美しかった。
伝票はありますかと尋ねると、青年はわざわざカウンターから出てきて
『アー、モト、バライ?チャクバライ?』
と確認してくれた。
カタコトの発音と
「元払い、着払い」という語句のミスマッチが印象的だった。
荷ほどきを終え、翌朝のパンを買いに最寄りのセブンイレブンへ行った。目当てのメロンパンを探しながら、ふと広島を出る前のことを思い出す。
「東京で、怖い人にさらわれたらどうしよう。田舎者だとばかにされたらどうしよう」と私がおびえていると
友人は、
「iccaさん。東京の人は、だれも他人に興味なんてありません。だからさらわれませんし、ばかにもされません」と言った。
そうかあ、誰も他人に興味ないのかあ。
それはとても気楽で、それでいて少しさみしいことだった。
それにしても今日のホテルは、
日本の未来の縮図のようでおそろしい。
駅近のワンルームマンションに人が入らず、
ホテルに改装し、スタッフは外国人。
清掃スタッフも、東南アジア系の外国人だった。
もしかしたらオーナーも外国人かもしれない。
東京のセブンはちゃんとセブンで、
セブンのパンはちゃんとセブンのパンだった。
メロンパンはなかったので、
たっぷりコーンマヨネーズパンを買った。
自宅の最寄りでよく買うパンだ。
大都会東京のセブンイレブンを出る。
出入りの郵便屋さんと
常連客らしいおばあちゃんが、
すれ違いざまにハイタッチするのを見た。
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