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兎が寂しくて死ぬのは
祖母を訪ねてきた。
毎年大晦日と元日は家族全員で帰省しているが、今年は父と私だけ、元日の短い時間で。
昨年祖父が施設に入ってから、明るくて口が達者だった祖母は静かになった。
電話では毎回孫と話せた歓喜のあまり受話器から音漏れしていた元気な声は、孫の声を聞けた安堵の静かな泣き声に変わった。
ただそれでも祖母は決して、暗くはなかった。
一人で家にいる寂しさと祖父への心配は溢れ出ているのに、どうにかそれに耐える何かがあるようだった。
いつも電話の最後に「がんばろうね」と言われて勇気づけられるのは私の方だった。
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久々に会えた祖母はやっぱり元気ではなかったが、
食卓につくと、いつもと変わらない味のおせち料理と祖母のトークが並べられた。
「このセロリの和え物とパプリカのやつ、どうかしら?~って作るの、簡単でしょ?本当はいぶちゃんが昨日から来てくれたら作り方教えようと思ってたんだけど。」
「最近全部食べきれなくてラップするの、これするといぶちゃんたちが小さい頃ご飯残して"ラップして!"ってママに言ってたの思い出すね。」
「この前テレビで懐メロやってて、聴いてたらジジのこと思い出しちゃって辛くなって、思わず施設に電話して"今こういうテレビやってるので観させてくれませんか"って言ったら"大丈夫、しっかり観てますよ"って言ってくれて、ババも安心して観れたの。」
私からの飛沫感染なんて気にしなくもいいくらいに、私はただただ祖母の話を聞いていた。
食事を終えてくつろいでいた時、祖母が言った。
「何でもね、声に出した方がいいの。
人に話すとスッキリするでしょ。一人で抱え込むのが一番ダメ。」
あぁ、これだ。
「ばーばは普段話せる人いるの?」
「もううんといるよ。町内会の人たち、お隣さん、今はお稽古お休みだけど歌の人たち、…」
祖母が潰れない理由はこれだ。
最近なかなか電話もできていないことに罪悪感を感じていたが、心配ご無用だった。まあ孫の声の効力は特別みたいだからやっぱり回数は増やそうと思ったけれど。
そういえば、ウサギが寂しいと死ぬって噂は嘘で、由来は、ウサギは病気を飼い主に隠す習性があって、飼い主が居ない時に突然死んでしまうことがあるかららしい。
寂しいと死ぬ、と言った人はきっと、人間と兎を照らし合わせたのだろう。
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帰る車に乗り込むまで、祖母はしきりに「一人は絶対だめだよ」と繰り返した。
「大丈夫。本音で話せる友だちたくさんいるよ。」
はっきりと言えた。
言って祖母を安堵させるつもりが自分が安堵した。
あけましておめでとうございます。
今年も好きな人たちと共に過ごせますように。
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