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大企業にいながらスタートアップへ派遣してもらうまでの裏側② ~社内関連部門とのリアルな調整~

 前回noteでは外部スタートアップへの派遣に関して、派遣決裁者である自身が所属するトップへの承諾を得るまでのストーリーについて述べた。しかし、実際にスタートアップへ派遣されるまでには関連部門への説明や手続きなど、大企業ならではの縦割りのプロセスをクリアする必要がある。今回は実際に派遣されるまでの関連部門との調整と、調整期間中の動き方について述べようと思う。

日に日に増える部門調整

大企業において、自身の所属する部門がどこかは社内では意外に大事である。私の場合は、R&D部門に所属している為、スタートアップ派遣に関する決裁者は研究トップになる。前回noteでは研究トップから承認を得るまでの話を述べたが、研究トップからは、事業にも関連することであるため、事業統括している役員との事だった。
 事業部門統括役員を皮切りに、経営企画、関連事業部、関係会社2社、人事部、法務部と関係するメンバーへの説明会を複数回実施することに。

部門調整をしていく上での心構え

 念頭にもっておくべきなのは、大企業の中では、前例がないことを率先してやりたいという人はまだまだ少ないということである。勿論、新規事業に理解を示してくれる人たちもいるが、そうでない人も多い。この理由の一つに目の前の仕事に追われている状況にあり、タスクをこなすこと=仕事になっている人が多いからではないかと思う。

 そのような人たちにスタートアップに派遣してもらいたいので、社内手続きをお願いしても、「社内で前例がない取組み=新たな調整が必要=仕事が増える」と発想してしまう(実際に業務が忙しいのも事実)。 

 露骨に「新規取り組みをしてもどうせ失敗するんだから、そんなことするくらいなら既存事業にもっとスタミナ張ってよ」のような発言も上がるケースもある。

各関連部門のメリットを考える

 社内調整も、結局のところ、事業と一緒で彼らのメリットを提示したり、懸念点を払拭できるかを事前に考えておくとスムーズにいくように感じる。以下は、私の場合に派遣に関する社内で合意を得るうえで感じたポイントである。

役員層は全社視点でモノを考える

 事業統括している役員には、説明した際に言われたのは、派遣自体はOKであるが、一人で進めるのではなく、会社全体としてどうやって連携していくかを考えてほしいとの事であった。当時は、自分がしたいっていう思いが全面に出過ぎていたので、派遣されて、何を還元するかは曖昧であった。私の場合は、スタートアップと一緒に一から立ち上げるので想定できない部分はあるが、事業連携を見据えるのかなど、将来の青写真は考えておくといいと思う。

役員から言われたアポロ計画

 新規事業をする上でのアドバイスとして、アポロ計画やの話をしていただいた。アポロ計画で掲げられた「人類を月に立たせる」というような明確なビジョンを掲げることが、極めて重要であることを説かれていた。今のオーラルケアを変えていく中では、こんなオーラルケアの世界にしたいといった明確なビジョンがあってこそ、周りを巻き込めるのだ。

 そういった点では派遣されているスタートアップ代表Hさんは巻き込み力が半端ない。その業界にいればいるほど、これは出来ないから・・・と考えてしまいがちだ。

 Hさんはオーラルケア業界にいい意味でどっぷり浸かっていないのもあって、「こういう世界にしたい → 皆でどうにか解決していこう」という発想を常にされていて、いつも刺激をもらっている。

経企部門は事業連携の仕方を考える

 少し話を戻すとして、経営企画が気にするポイントは以下の2点である。
①派遣して成功した場合にその事業はどう取り扱いになるか
②現時点でお金のやりとりが発生するか
③派遣によって、事業的な制約が生じるか

 私の場合は、派遣先との取組みをこれから始めるというステージだったので、スタートアップのノウハウや働き方を学ぶことを趣旨として社内には話を通すこととした。

人事部は人材育成の新しい事例として応援してもらう

 実際に派遣となると人事部も話を通さなくてはならない部門の一つである。人事部的には、イノベーション創出に向けた働き方の新しい事例となりうる文脈を伝えると、応援してくれる。最近では多くの企業が働き方改革を行っているので、その施策に入れてもらうのも手ではないかと思う。あとは実務面では主に下記点を規定した。

①労働場所
②労働条件(就業時間、残業時間)
③雇用形態
④派遣日

最後に法務部

 最後に法務部へ。経営企画部と人事部とで話し合った留意点をリストアップし、ドラフトを作成する。スタートアップへ派遣されて思うことは、基本一人で契約書作成から事業検証まで色々しなければならない。そういった意味では、企業の中で若いうちから契約書を作成することに慣れておくに越したことはないと感じる。

関連事業部門、関係会社

 関連事業部門や関係会社には、とにかく「外部派遣先でのチャレンジなので、失敗恐れず挑戦できます」&「成功したら●●のような連携を見据えています」の2点を伝えておけば、ポジティブな側面があって、ネガティブな側面はないので、文句を言われることはない。

1人目の事例をつくると波及していく

 上記のように関連部門の調整を終えて正式に派遣する決裁承認をとったわけであるが、一つ事例があると、それが波及していく。実際、同じように外部で挑戦したいといった声が若手から出てきているのは嬉しく思う。

面倒くさい社内調整をしてまでも大企業にいながらスタートアップ派遣にした理由

 私はオーラルケア業界をより良いものに変えたいと思っている。そのためにはプロフェッショナルケア(歯科医師や歯科衛生士がするケア)とセルフケア(家庭で自分するケア)のいずれも変革していきたいと思っている。

 しかし、スタートアップでできる領域は人・カネの観点から出来る領域は限られる。その為には、既存プレーヤーを巻き込んで業界全体を動かさないと意味がないと考えている。

 私が所属している企業はセルフケア領域が中心であるので、プロフェッショナルケアに関する領域をスタートアップで取組むことで、シナジー効果が生むのが狙いである。書籍「ニュータイプの時代」で知られる山口周さんが、セカンドペンギンがいてのファーストペンギンになれると語っているように、ムーブメントを一気に創り上げる為の働き方として、大企業にいながら、スタートアップで挑戦するのが最適解だと思っている。

事業検証機会は派遣決裁承認を待ってくれない

 今回は社内調整をいかにして、派遣の承認を得たかについて綴った。では、それまで何もできないのか。答えはNoである。普通は社内決裁を通して、その後に正式に動くのが筋ではある。しかし、事業検証するチャンスは、社内決裁を待ってはくれない。その間にチャンスを次々に失っているのである。

 そこでどうするかとういうと、プライベートの時間(平日夜、土日、場合によっては有給)でHさんと動きだしたのである。この辺りを次回noteで綴っていこうと思う。


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