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Diversity&Inclusion for Japan ⑤〜ジェンダーステレオタイプについて考える(前半)

なぜ書くか

Diversity&Inclusion(ダイバーシティ・インクルージョン ※以下D&I)というコンセプトがビジネスの世界において重要になる中、日本に住む約1億人には細心の取り組みやトレンドを学ぶ機会が多くありません。Every Inc.では「HRからパフォーマンスとワクワクを」というビジョンを掲げ、グローバルな取組みやアカデミックな文献からD&Iに関する歴史、取組み、事例など”日本なら”ではなく、”グローバルスタンダード”な情報を提供しています。https://every-co.com/


はじめに

女性が職場でリーダーシップを取る上で、私たちの無意識に持っているジェンダーステレオタイプが、どのように障壁となっているかを知るきっかけを作れたらいいと思います。

女性とリーダーシップ

近年、女性の採用、女性が働きやすい職場を作ることを目指す会社が増えてきました。一方で、2017年時点でも日本のトップ企業の中での女性エグゼクティブの割合はたったの6.5% です。2020年では7.5%になりました。

Peusら(2015)は女性がキャリアアップをしていく上で障壁となる要素として、女性の自信の低さや、ロールモデルの不在などをあげ、その中でも最も大きな障壁は、ジェンダーステレオタイプである述べています。

ジェンダーステレオタイプとは、男性は頼りがいがあり、女性は協調性がある、というような、社会で共通認識される、女性・男性の特徴のことを指します。

このジェンダーステレオタイプがどのように女性のリーダーシップに影響を与えるのでしょうか。

女性がリーダーシップを取ることはジェンダーステレオタイプに反する?

歴史的に、男性は家計を支える一家の大黒柱とされ、女性は子供を育てる養育者とされてきました。その結果、男性はagentic(競争的、自信がある、主張が強いなど)、女性はcommunal (暖かい、友好的、世話好きなど) というステレオタイプが生まれました。

このジェンダーステレオタイプの結果、女性は男性ほど能力・競争心がないという謝った認識がされ、女性はあまりリーダーに向いていないと考えられるようになりました

Role congruity theory

女性のステレオタイプ(communal)と現代の職場がリーダーに求める特徴(agentic)が一致しないために、女性がリーダーシップを取る上で困難にぶつかる、という考えをRole congruity theoryと言います。(role=役割、 congruity=一致すること)

このセオリーによれば、リーダーシップに関して女性は二種類の偏見を受ける可能性があると言います。

1 女性はリーダーシップの可能性を見込まれにくい
2 リーダーシップをとる女性はあまりよく思われない

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つまり、一般的に職場で能力があるとみなされるために、強く主張する、高い志を抱くといったagentic(競争的、自信がある、主張が強いなど)な行動を示すことが求められる一方で、女性のジェンダーステレオタイプから生まれるイメージを侵さないためには、暖かく、感受性が高いといったcommunal(暖かい、友好的、世話好きなど)な行動を示すことが求められるのです。

そしてagentic(競争的、自信がある、主張が強いなど)な行動をもとにリーダーシップの地位を築いた女性はジェンダーステレオタイプから逸脱しているために、周囲あるいは世間からあまり良い評価を受けない傾向があるのです。

同じ女性でも役割が変わることで、人々の評価が変わる例はヒラリークリントンを見ると分かります。

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引用:Hillary Clinton launches her 2016 presidential campaign. yahoo!news. https://s.yimg.com/uu/api/res/1.2/0Lb4sZIA8VVWK0EcTTNV9w--~B/aD0xNzc4O3c9MjY3NDtzbT0xO2FwcGlkPXl0YWNoeW9u/http://media.zenfs.com/en_us/News/Reuters/2015-06-13T160741Z_1757298019_TB3EB6D18SJRU_RTRMADP_3_USA-ELECTION-CLINTON.JPG

ヒラリークリントンが1993年から 2001年の間ファーストレディーだった頃、彼女の人気は常に高いものでした。しかし、2016年にアメリカ大統領に立候補すると、伝統的な女性のステレオタイプを破ったことから、世間の評価は変わり、彼女は厳しく、冷たく、そして好ましくないというイメージを持たれるようになったのです。

女性リーダーの活躍

そもそも「女性はリーダーに向いていない」というステレオタイプは本当なのでしょうか?

2019年のHarvard Business Reviewが公開する、数千に及ぶ360度レビューによれば、それは正しくないことが分かっています。

この調査では、女性は、イニシアティブがある、レジリエンスがある、結果にコミットするというような職場における頻繁に使われる評価項目中の84%の項目で男性より能力が高いと評価されていることが分かりました。そしてこの結果は、伝統的な「男性の職業」とされるITや法律と言った業界を含んだものです。

また、コロナウイルスパンデミックの対応に際し、ニュージーランドのJacinda Ardern、台湾のTsai Ing-Wen、デンマークの Mette Frederiksenなど、各国の女性リーダーがメディアの注目を浴びましたのも皆さんは御存じだと思います


Garikipati, Kambhampati(2021)によれば、コロナウイルス感染者、死者数を含む、コロナウイルスに関する194カ国のデータ(2020年5月19日時点)から、女性がリーダーの率いる国はより効果的な対応をしたことが分かっています。
また、Sergent, Stajkovic(2020)による論文ではアメリカ国内で女性政治家が率いる州はコロナウイルスによる死亡率が低いことが分かっています(2020年5月時点)。


また、Harvard Business Reviewは2020年3月から6月の3カ月間で454人の男性と366人の女性のリーダーシップの効果性をはかりました。

その結果、パンデミック前中とも女性リーダーの方が高く評価されたことが分かりました。更にパンデミック中の評価の男女間の差がより大きいことから、女性は危機的状況でも優れたリーダーシップを発揮できる可能性を示唆しています

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ジェンダーバイアスは優秀な人材採用・昇進における盲点かもしれない

有能な女性リーダーに関するデータの存在にも関わらず、組織内で高い地位に就く女性が極端に少ないという現実にはジェンダーステレオタイプが少なからず影響しています。


採用面接、昇進に関する打診、フィードバック等の機会で各個人のジェンダーバイアスを可視化し、公平な視点を持つことで、より優秀な人材がより適切ポジションに就くことができるのかもしれません。

その為には、ジェンダーバイアスの可視化を組織全体で行っていく必要があるのではないでしょうか。より公平で組織のパフォーマンスを向上させる施策は、評価(performance evaluation)という人事機能面から組織を強化できるのかもしれないのです。


<おまけ>あなたのステレオタイプを知ることのできるテスト(Project Implicit)

Project Implicitは、アンコンシャスバイアスを研究する非営利法人で、1998年に、Tony Greenwald博士(ワシントン大学)、Mahzarin Banaji博士(ハーバード大学)、Brian Nosek博士(バージニア大学)の3人の科学者によって設立されました。Project Implicit Health(以前のProject Implicit Mental Health)は、2011年に開始され、Bethany Teachman博士(バージニア大学)とMatt Nock博士(ハーバード大学)が主導しています。



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参考文献

Eagly, A. H., & Karau, S. J. (2002). Role congruity theory of prejudice toward female leaders. Psychological review, 109(3), 573.

Garikipati, S., & Kambhampati, U. (2021). Leading the Fight against the Pandemic: Does Gender really matter?. Feminist Economics, 27(1-2), 401-418.

Mishra, S (2021). Implicit Stereotypes. EMPOWERed Newsletters. https://berkeley.qualtrics.com/jfe/form/SV_6m3MFdJYaChkZIF


Peus, C., Braun, S., & Knipfer, K. (2015). On becoming a leader in Asia and America: Empirical evidence from women managers. The Leadership Quarterly, 26(1), 55-67.

Sergent, K., & Stajkovic, A. D. (2020). Women’s leadership is associated with fewer deaths during the COVID-19 crisis: Quantitative and qualitative analyses of United States governors. Journal of Applied Psychology, 105(8), 771.

Zenger, J., & Folkman, J. (2019). Research: Women score higher than men in most leadership skills. Harvard Business Review.

Zenger, J., & Folkman, J. (2020). Research: Women are better leaders during a crisis. Harvard Business Review.

Oshiro, N. (2019). Japanese companies set goal of 30% female executives by 2030. Nikkei Asia.https://asia.nikkei.com/Business/Business-trends/Japanese-companies-set-goal-of-30-female-executives-by-2030

著者紹介:松澤 勝充(Masamitsu Matsuzawa)

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神奈川県出身1986年生まれ。青山学院大学卒業後、2009年 (株)トライアンフへ入社。2016年より、最年少執行役員として組織ソリューション本部、広報マーケティンググループ、自社採用責任者を兼務。2018年8月より休職し、Haas School of Business, UC Berkeleyがプログラム提供するBerkeley Hass Global Access ProgramにJoinし2019年5月修了。同年、MIT Online Executive Course “AI: Implications for Business Strategies”修了し、シリコンバレーのIT企業でAIプロジェクトへ従事。2019年12月(株)トライアンフへ帰任し執行役員を務め、2020年4月1日に株式会社Everyを創業。採用や人材育成、評価制度など、企業の人事戦略・制度コンサルティングを行う傍ら、UC Berkeleyの上級教授と共同開発した3カ月プログラムで、「日本の人事が世界に目を向けるきっかけづくり」としてグローバルスタンダードな人事を学ぶHRBP講座を展開している。

(お仕事の依頼はこちらから)
https://www.linkedin.com/in/masamitsu-matsuzawa-funwithhr/

著者紹介:池田 梨帆 (Riho Ikeda)

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株式会社EVERY インターン

2021年5月、世界トップクラスの心理学部、University of California, Berkeley(以下UCバークレー)心理学部を卒業。在学中、UCバークレーのビジネススクール、Haas School of Businessのダイバーシティー・ジェンダー研究室で研究助手を務める。心理学を使うことで、人の思考や、グループ内のダイナミズムなど目に見えない要因を可視化し、効果的な問題解決をすることができると考え、特に心理学を使ってビジネスの効率性を上げることに興味がある。2021年8月より、George Mason University大学院で、Industrial Organizational Psychology(産業組織心理学)を学ぶ。
(お仕事の依頼はこちらから)
https://www.linkedin.com/messaging/thread/2-ZjEyMDBkZDAtMzg3NS00MGFlLTg4MGItZjRiYTg5MWU2MjJiXzAxMA==/

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セミナーなども展開しています。

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