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【詩】【エッセイ】恋をみつめて「あの夏になりたい」「ぱっつん」「月齢」

あの夏になりたい

わたしは、あなたの現在ではなく、
永遠の過去になりたい。

そばにいたら、きっといつかわたしは
あなたの気に入らないことをする。
あなたを傷つけるし、
あなたを怒らせる。

それですこしずつ私のスコアが減っていって
いつかゼロになってしまうなら、
そんなことになるのなら。

記憶の海辺で、
堤防に座ってむこうを見つめている女になりたい。
麦わら帽子の下見え隠れする、憂うようなまつげ。

そうして思い出すたびに、
少しあなたがかなしくなって
一層うつくしかった気がしてくるような
そんな女になりたい。


ぱっつん

あたしぜんぜん、
ぱっつんなんて好きじゃないのに。

黒髪の重たいぱっつん、
きみが好きだと言っていたから。

いつのまにか
あたしの前髪は眉のラインにきっちり、
隙間のないびろうどになっていた。

ほんとうに好きなのは
ふんわり空気のながれるおでこなのに。

真っ黒なカーテンは風も通らなくて、
けど、それじゃないと不安になるから。
カーテンにくるまれて逃げられなくなる。
どんどん息が出来なくなって、

あたし、ぱっつんが怖い。

きみの好きなもの、
好きになれなくてごめんね。


月齢

この世にはまぁるい愛を持って生まれてきたひとと
そうじゃないひとがいて。

わたしの愛は上弦の月。
影になっている半分は、相手を欲して独り占めしようとする感情。

きみの愛は下弦の月。
影になっている半分は、恋のぶん。

わたしたちは半分どうし、
だからいっしょにいられる。

恋のぶぶんでお互いを傷つけながらでも、
すこしずつ、
いつかふたり満月になろう。

さいごに


恋というものは実にやっかいだと、近ごろよく思います。
心のいちばん奥にしまっていたはずの切実さを誰かにあずけるというのは、
ひとが思っているよりもたいへんなことなのかもしれません。

あるときは足が三センチくらい宙に浮いているような心地がするのに、
あるときは底の見えない奈落の底を覗き込んでいるようなきぶんになる。

そんなふうにわたしたちをしっちゃかめっちゃかにする恋は、
わたしにとって永遠の問題であり続けるような、そんな気がします。


昔から、恋という気持ちは何も恋愛対象に向けた特有のものではなくて、
なにかに胸を燃やして「想い焦がれる」といった、もっと広いものと繋がりがあるのではないかと思ったりもしてきました。

それは遠く離れた異国の地への憧憬や、
今よりもすこしだけでも良くなっていてほしい未来への切実さ、
どうしてもそのひとのようになりたくてたまらないという、じぶんではない誰かへの渇望、
そういったものと類似性があるのかもしれません。

わたし自身、そういった「今ここにはないもの」に恋焦がれながら
人生を過ごしてきた自覚が多々ある人間なのですが、

それについてあまり語ると長くなってしまいそうですので、
今日はここまで。

それでは、皆さまの日常に一分一秒でも多くの穏やかな時間がありますように。

最後まで読んでいただき、ほんとうにありがとうございました。


Mei(メイ/明)


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