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お節介

デイサービスで働いていた頃、利用者T様との話。
T様は認知症がありながらも、いろんな介護サービスを受けて一人暮らしを頑張っていた。
送迎時職員がT様の部屋の電気を確認し、見守るようにしていた。
職員が帰る際、まだ帰らないで欲しいと言われコタツにあたることもあった。
T様のコタツの上には、白黒やセピア色の家族写真が10枚ほど置いてあった。その写真を見ながらコタツで一緒におしゃべりをした。

「たまに夜にみんなが来てくれるのよ〜うふふふ〜」

と嬉しそうに話す目に嘘はなかったので、白黒のご家族もT様を守っていたのだろう。だから私は帰り際に、T様の家の仏壇によろしく頼みますとお願いをしてから帰る日課があった。

そんなT様はデパートで紳士服コーナーの担当をしていた。
お客様の計測や似合う色の提案などの仕事をしていたそうだ。
休憩や仕事終わりに近くの蕎麦屋に立ち寄ったこと、そのデパートの社長と社長夫人にとても可愛がってもらったこと、デパートが大きな会社に吸収されて悔しかったことを懐かしそうに目を細めて話してくださった。

私はデイサービスを辞め、老健で働き始めた。
老健で私の担当でない別のフロアの入浴介助をしていた時のことだ。

目をつぶったままの男性利用者の入浴介助をし始めると、ある職員からその利用者がデパートの社長だったことを聞かされた。

私の頭の中にT様が微笑まれた。

恐る恐る目をつぶっている男性利用者に声を掛けた。

「紳士服売り場のT様を知っていますか?」

その瞬間、その男性利用者の目がバチっと開き、彼は大きな目で私を見つめこう言った。

「知ってますよ。仕事のできる人です。」

私は社長さんにT様が社長夫妻に大変感謝をしていたことをお伝えした。社長さんは謙虚な人で、こちらこそなんですと話されていた。
そしてまた目をつぶられた。

社長さんも認知症を患っていたようだが、仕事のできる人を把握されしっかり覚えていた社長さんだった。

私は利用者の今の介護をしているけれど、過去と過去をつなぎ合わせる介護ができた、貴重な体験だった。

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