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所詮、金持ちの道楽なのか?

日本ではあまり馴染みのない言葉ですが、今、世界ではフィランソロピー(Philanthropy)がブームです。日本語では慈善活動とか博愛主義と訳されますが、要はお金持ちが財団を設立したり、寄付をしたりして社会貢献を行う行為です。

2019年にアマゾンの創業者ジェフ・ベソス氏と離婚したマッケンジー・スコット氏。翌年の2020年には300近い主に非営利の団体に80億ドル(8800億円)の寄付をしたことが明らかになっています。離婚による財産分与は6兆円以上と言われています。そのほとんどを寄付すると言っています。また、世界最大の財団、いわゆるビルゲイツ財団は毎年5000億円ほどの資金を使って世界中で社会課題解決事業を展開しています。超富裕層や企業によってNPOや社会起業家に提供されるフィランソロピー資金は年間15兆円以上に上り、その額は増え続けています。

このうち、10兆円は米国の財団などが提供しています。こうした資金は貧困家庭の子供の教育支援など、行政の手の届かない課題や利潤を追求する民間企業のビジネスモデルでは解決できない社会課題への取り組みに活用されています。税金が政府や行政が行う「公助」に使われるとすると、寄付などのフィランソロピーマネーは「共助」を行う原資となります。

米国ではコロナウィルスの感染拡大で「公助」の限界が改めて認識されたことで、「共助」の重要性が増しています。また、白人警察官が抵抗できない黒人容疑者を拘束時に過度な力を加えて死に至らしめた問題では、行政では解決できない人種間の根深い課題が浮き彫りになりました。更にトランプ政権下、政治をめぐるフェイクニュースが蔓延し、運営資金を心配しなくてよいNPOメディアが存在感を高めました。思想信条、宗教、言論の自由などに関わる社会の微妙な問題は「公助」ではなく「共助」によって解決しようという流れが米国では生まれ始めています。

こうした動きを後押しするようにITなどで莫大な財産を築いた大富豪たちがフィランソロピーの世界に次々に乗り出しています。超格差社会が到来する中、社会的な批判を避けようと、富裕層によるフィランソロピー活動は質、量ともに急激に増え始めています。こうした状況は産業革命のあとの1900年代初頭、巨万の富を築いたロックフェラーやカーネギーなどが次々と財団を設立した時代と酷似しています。こうした動きは欧米だけでなく東南アジアや南アジアでも起きています。私が世界の関係者と日々接触していて感じるのは、こうした流れはいずれ日本にも到来するだろうということです。

フィランソロピーは、もちろん富裕層の節税対策の側面もあります。株式投資で巨万の富を得たウォーレン・バフェット氏は、資産に比べて納税額が極めて少ないことをスクープされた際、「資産の99%は寄付する。税金を払うよりよっぽど社会の役に立つ」とコメントしています。こうした行為を「金持ちの道楽だ」と批判する人たちもいます。ただ、社会が抱える問題の解決のため、これまでにない種類の資金が、かつてないほど多く供給されようとしています。

技術革新や人口動態の変化などで急速に変化する日本社会。社会が抱える課題もより複雑になっており、行政だけでは解決できない問題も増えています。果たしてフィランソロピーの流れは、いつ日本に訪れるのか?新たな資金が新たに生まれる社会課題を解決する原動力になるのか?みずからの身をこの業界に置きつつ、やがて来る大波を迎え撃つ計画を立てています。(写真:kgb.co.jp)

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