6Hz - 7Hz 『逢うべき意図に出逢えることを』
仕事をしていると、自分の意図がうまく伝わらないことが多い。
というか、僕の話は大概が嘘で塗りたくられまくっているので、そりゃあ意図も伝わりづらいに決まっている。
お店に『ito』というカードゲームがある。
『ito』は自分の数字カード(1~100)の大きさを「テーマに沿った言葉」で表現して、数字の大小を推理する協力型のカードゲームだ。
遊び方は至って簡単で、あるテーマに沿って自分の数字カードが何かを「言葉」で伝える。
例えば、テーマが「怖いもの」なら、【1】は全然怖くないもの、【100】は怖いものを思い浮かべる。
もし、自分のカードが【80】なら「心霊現象」や「バンジージャンプ」などと一般的に怖いものを表現して、【5】なら「カピバラ」や「ひょうろく」など怖くないものを表現する。
自分の数字が小さいと思った人から公開していき、すべてのカードを小さい順に出すことができたらゲームクリアになる。
これまで「強そうな四字熟語」「モテそうなチェーン店」「エロい平仮名」など、いろいろなテーマで遊んできて、だんだんとゲームに飽きてきたある日、「恋人が隠れてやっていたら別れを告げる事実」というテーマになった。【100】がその事実を伝えられたら即別れる、【0】はそんなんじゃ絶対に別れない、という塩梅だ。
カードが配られ、それぞれが頭を悩ます。
思いついた人から1人ずつ順に発表していく。
Aさん:パパ活(ママ活)
Bさん:ねずみ講
僕:バーテンダー
Cさん:この世の全てのマッチングアプリ
Dさん:考察系YouTube
Eさん:呪術
Fさん:フラッシュモブ
このラインナップが出揃ったとき、カードが切れてないな、と思った。
同じくらいの数字が並んでいて、そのまま配られている可能性が高い。
かなりハイレベルな争いが繰り広げられていて、自分以外の数字はだんご状態なのではないか。
僕は自分の数字が1番低いと確信して、自分から数字を公開することを主張する。
すると、周りは全員強い口調で拒否する。「それはない」と口々に言われるが、フラッシュモブや考察系YouTuberには言われたくない。
僕は皆の反対を押しのけてカードを出す。
【37】
他の猛者たちに比べたら断然低い方だ。
おそらく全員【50】、いや【80】は超えているに違いない。
ここからが本番…と思ったが、全員から「あーあ」という溜息が漏れる。
何がいけなかったのかさっぱりわからなかったが、次々とカードを公開していきその理由が判明する。
Aさん:パパ活(ママ活)→【34】
Bさん:ねずみ講→【30】
Cさん:この世の全てのマッチングアプリ→【36】
Dさん:考察系YouTube→【18】
Eさん:呪術→【10】
Fさん:フラッシュモブ→【24】
バーテンダー【37】が最小の数字だと思っていたが、むしろ最大だった。
僕は全員が【0】と【100】を逆と解釈して、【0】に近い方が即別れるのだと勘違いしているのだと思った。それなら呪術【10】も理解できる。
しかし、口を揃えてそうではないと言う。
恋人がパパ活を、ねずみ講をやっていてもそんなんじゃ別れないとハッキリ明言した。そんな生半可な気持ちで付き合ってない、と。
最初はギャグで言っているのかと思ったが、皆真剣と書いてマジだ。
僕はこの一連の会話を聞いて、そのマジな眼差しを目の前にして、全員が全員それぞれ発表したことを実際に自分でやっているのだと確信した。
そう思ってみると、
Aさんのカバンがとても高級なものに見える。
Bさんのスマホには次々と連絡が来ているし、
Cさんはスワイプの回数がやたら多い。
Dさんは話し方がYouTuberっぽいし、
Eさんは待ち受けが呪術廻戦だ。
Fさんは今にも踊り出しそう。
それぞれが誇りを持ってやっていること。
それぞれが人生を懸けてやっていること。
この瞬間、意図が180度変わった。
正直このエピソードをnoteに書いて公開することもためらうくらい、僕は価値観の違いというものを痛感した。
フラッシュモブが別れの原因になるほど恥ずべきことだと思っていたが、それを職業にしている人がいるという事実。
考察系YouTuberに対する偏見。パパ活やねずみ講といったお金の稼ぎ方。呪術への理解。マッチングアプリという新しい出会いの形。
全てが全て、自分の価値観で恣意的に判断していた。
これらを恋人がやっていたら確実に別れる。全人類がそういった価値観を持っていると、勝手に想像していた。
しかし、自分の視野が狭いだけで、自分の知識が浅いだけで、自分の考えが愚かなだけで、この世界は自分以外のたくさんの人のおかげで回っているのだと再認識した。
僕は偏見で生きている。
しかし、その偏見が急に方向を変えて自分に突き刺さった感覚。
自分が信じていたものが崩壊して、新しい価値観が生まれる感覚。
多様性の時代。
Hzにもさまざまな価値観を持っている人がいて、どんな人でも受け入れて、どんな人でも楽しめる空間を作ろうと決意したではないか。
どんな周波数でも、1つの周波数に合わせると。
僕はゲームの最後に「じゃあ、バーテンダーが【37】は高すぎたのか。【2】とか【3】とかだったってことだよね?」と尋ねた。
「いや、バーテンダーはその数字で合ってる。最後に出せば良かっただけ」と全員に言われた。
どうやら周波数が違ったのは僕だけのようである。
ちょっとだけ泣きそうになりながら、そのカードを山に戻して闇雲に切る。
果たして、この話の本当の意図が伝わるだろうか。
いろんな周波数の人がいるとか、バーテンダーに対する偏見を解消したいとかではない。
こんなくだらない話を寝る間を惜しんで考えてるくらい、僕はHzのことが大好きなのだ。
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