2024上半期遊んだフリーゲーム10選+ベスト1
はじめに
昨年・一昨年の年末に「今年遊んだフリーゲーム10選+ベスト1」を発表させていただきました。
今年は上半期、下半期に分けて「遊んだ」フリーゲームの中から10選+ベスト1の11本を選ばせていただきます。そのため2024年リリース作品でないものも入っています。
ベスト10選の紹介順は「順位」を表すものではなく、私がダイスを振って順番を決めています。各作品には短評の他、去年と同じく各作品を一語で表したものをサブタイトル的につけています。また、手前味噌ですが実況やレビューをしている作品についてはリンクを最後に貼っています。もちろん見ていただきたいですが、まずはぜひリンクから遊んでいただければと存じます。
2022年、2023年のベストフリーゲームに関してはこちらをお読みください。
2024上半期ベストフリーゲーム10選
妹侵蝕 - ソロリズム ー「真実」ー
家で待っている妹と日々の習慣として「いつもと全く同じ内容の会話」をする、その中で間違いを指摘する短編ノベルゲームになります。指摘の度に迎えるエンディングから通じて少しずつ何が起きているのかの真相が見えてくるという作品です。「いつもと全く同じ内容の会話をする」という段階で心がざわつくかと思いますが、今作はそこに限らずとにかくプレイをしている間色々な方向で心がざわざわします。たとえば、
「妹浸蝕」という意味深なタイトル
選択肢、セリフなど、文章の端々に感じる不安感
かわいいけど何かちぐはぐな妹の姿
ほのぼのした仲良い姉妹の会話なのに何かが狂っている
等の要素によりちょっとずつ「あっこれは…」という不安感が募っていきます。
エンディングを迎えるとともに、様々な汚れに塗れたガラスを、それぞれ色の違う洗剤で落としていくかのように真相、あるいはそれらしきものが現れていくと、「こうなのかな」と思っていた真実がそのままに顕現したり覆されたりして、前述の不安感と共に読んでいてどんどん心がかき乱されます。決して一筋縄でいかない物語で、最後の最後に訪れた「あの姿」は「真実」「結末」というものについて何かを考えさせられるものでした。本当にストーリーテリングがうまくて、「あーそういうことか!?あれ、そういうことじゃない……?え、でも、それじゃあ、え…?」みたいになったのを覚えています。ただ、辛い話ではあるのですが、そこに一筋の希望みたいなものも確かに見えました。
メニューの文面からUI、絵、エンディングの名前、全てが練りに練られて、一見ほんわかとした雰囲気の中に恐怖と狂気、そして悲しみを込めて、静かに全力で心を揺さぶってくる大傑作です。
NOA ー「残響」ー
大好きな作家さんであることを公言しているKaroooome様の作品です。作者様の作品はもともと非常にエクストリームかつダークユーモアに溢れ、でも重厚さや粋なところもある作風なのですが、今作は作者様自ら「じっとり重め」と公言している作品です。
3分ほどの超短編で、分岐なしの一本道作品なのでここで内容については何も触れることはありません。
ただ、その短い中で、忘れられない痛々しい物語が、文章、絵、音楽、とにかくレベルの高い全ての要素でこちらに投げかけられます。いえ、むしろこちらが物語の世界に蹴りだされ、そのあと物語からも蹴られる、と言った方が正しいでしょう。あまりのことに実況の場で初めて読み切った時「どうしよう…」と口を突いて出たぐらい私は途方に暮れてしまいました。
今作は物語における「順番」「切り取り」の大切さを強く感じました。
誰をどの順番で出すのか?
物語をどこから始めて、どこで終わるのか?
そのような「順番」「切り取り」によって、受け手の感情や認知の向きをコントロールするのが創作術の一つですが、それが今作はとんでもなく抜群かつ意地悪で、語り方が本当にすごいな…、と改めて感じます。それによって作り出される「安易な飲み込みなど許さない」と言わんばかりの残響に、多くの人は思わずもう1周読んでしまうのでないでしょうか。それぐらい強く、グロテスクで、意地悪で、容赦なくて、だからこそ誠実で心意気を感じる。そんな大切な作品です。
説明文にはたった一言「あなたは〇〇〇」とあります。この物語において、いったいこれを遊ぶ自分は何なのか?ぜひ、それを知ってもらいたいです。
Forever Time ー「構図」ー
仕事を首になったばかりの青年と写真家を目指す女性が、共に写真を撮るために交流を深めていく日々を描いたノベルゲームです。ティラノゲームフェス2023で非常に話題になっていて、私も遅ればせながら見させてもらって感動した作品です。「new cinematic novel game」と銘打たれていたり、スタッフロールに「監督」という言葉が出ていたり、実写の静画や動画を取り入れたりと明確に映画を意識した手法が取り入れられています。
映像の工夫が本当にこだわり抜かれていて、光源の入り方もすごくよいですし、輪郭が淡くぼんやりしているゆえに私たちの人生や生活を投射できる風景、そこにBGM・SEをどのタイミングで重ねるかなど、細部にまで工夫と想いが込められていて、そこから「エモい」という言葉がぴったりの言語化しがたい感動を受けました。ストーリーも、この突然の出会いで主人公の内面がどう変化していくか、二人の関係性がどう変化していくかを丁寧に描いていて、見ていて二人を応援したくなるような作品です。
何より「すごいな」と思ったのは、今作の映像が「構図」によって物語や感情の変化、そして関係性を二人のセリフや地の文以上に圧倒的な雄弁さで語っていることです。個人的な話ですがさいきん映像や画像の「構図」を学んでいるので、今作がやっていることのすごさをより感じています。ぜひ、絵の中の二人がどこにいて、どこにいなくて、どこに視線を送っていて、どこに焦点があっているか、それを注目してみると、より物語を強く味わえるのじゃないかと思います。最後に出る一枚絵を見て僕は涙を流しました。
アクアリウムは踊らない ー「情熱」ー
水族館を舞台としたパニックホラーアドベンチャーとなります。おそらく上半期、というかここ数年で最も話題となったフリーゲームの一つであり、名前を聞いたことがある方も多いのではないでしょうか。
ゲームはスタンダードな2D探索ホラーです。パニックホラーらしくジャンプスケアが多用されていますが、その演出のバランスやタイミング、予兆の有無のバランスが抜群によくてプレイ中緊張感を与えてくれます。何もないところでさえ「この先何が待っているんだ…?」と手に汗を感じながら遊ぶことができました。また、水族館や海、その他さまざまなモチーフ、そしてBGMにより、恐怖の中にも美しさを感じる作品となっています。
さらに今作はキャラゲーとしての側面も非常に強いです。過去のシチュエーションホラーゲームの名作と比較しても、探索をする主人公側だけでなく、登場する異形側にまで掘り下げられているのが特徴だと思いますし、特にパニックホラーにおいては結構珍しいのではないかと思っています。それによってキャラクターの危機がより深刻に感じられますし、単純に「怖い」だけではなく、その水族館の世界に対して不思議な愛着と哀憐を感じるようになります。さらに完結編になってからは主人公スーズの青春・成長物語としての熱さを帯びるようになり、結末には胸が熱くなるものがありました。個人的には登場人物の中ではクリスの物語も非常に迫るものがあります。
他の仲間が失踪し1人でトータル8年かけて作ったという作者側の物語も含め、その情熱で待望の水族館コラボまで熱を広めた「水」と「海」というモチーフと裏腹に熱い作品です。私自身も前編を遊び「これはすごくパワーのある作品で、完成が楽しみ…!」と思ってから2年間待った、その甲斐が間違いなくあったと思わされる作品でした。
本作は前編・完結編とレビュー記事を書いていますのでお読みいただければ幸いです。
ドキドキ!?魔法学園[:ルーキー:] ー「高揚」ー
VR空間で魔法バトルをする「魔法部」を舞台とした青春・架空スポーツのノベルゲームとなっています。
私はスポーツもの創作が大好きなのですが、今作はプロローグ、第一章的な作品ながらスポーツものでテンションが上がる要素がすでに詰まりに詰まっています!
・新しい仲間との絆を競技を通じて築いていく
・魅力的な対戦相手との真剣勝負
・勝敗にちゃんと展開とロジックがある
などなどなど、とにかく丁寧に必要なものをユーモアを入れつつテンポや分量もいい感じで物語が進んでいくので、「えー!すごーーーい!」「次どうなっちゃうのーー!」と読み進めていてどんどん「アガる」作品です。特にVR空間という「なんでもあり」な世界というのは創作においてややもすると「なんでもありなんだからなんでもありじゃん」と冷める要素になる可能性もありますが、その空間にしっかり意味を持たせたり、VR空間以外でのドラマを描くことでそう思わせないのも本作が魅力的に感じるところです。
本当にお手本のように、いやお手本以上に作りこまれた作品で、スポーツを見ている時の高揚をプレイ中に味合わせてくれます。特にVR空間に入りこむデバイスである「Cromo」を起動したときのエフェクトとそのシーンは必見で、自分も一気に物語にダイブしていったのを覚えています。またVroidによる3Dモデルでキャラクターを作っているのでポージングに自由が利き、それを生かしてバトルシーンのモーションがかなり凝っているのも見ていて本当にあがります。そのモーション、決め絵から登場人物のキャラクターがつかめるという、スポーツもの、バトルものアニメや漫画のあのよさが全力で詰まっています。
今作はすでに続編が開発中ということです。今後さらに高揚できる体験ができそうなので、ぜひ今のうちに遊んでみてほしい作品です。個人的にもティラノゲームフェス2023でスポンサー賞を送ったぐらい強く心に残る作品でもあります。
KAFKA:TEST CHAMBERS ー「逆説」ー
IPアドレスの仕組みを利用し、期間限定で、しかも一度だけ遊べるようにされたゲームになります。ドット絵で描かれた少年風の見た目の被検体に電流を流す、対話をするなどの干渉をすることで蛹化を目指す作品でした。ちなみに私はすぐに被検体を破壊してしまいました。
ゲームの大きな魅力として「やり直しがきく」ことがあると思います。私の好きなノベルゲームでは選択肢による分岐をやり直して全てのエンディングを回収するのが普通ですし、アクションゲームでは初見で絶対勝てそうもないボスに何度もゲームオーバーになりつつも少しずつ動きや弱点を理解して何度も何度もかけてクリアしたりします。
おそらく今作はそのような「ゲーム」という構造に対してのアンチテーゼ的な面があるのでしょう。ただ、実際に遊んでいる時、そして今作を思い出している時は不思議と、というより逆説的に「むしろすごくゲームだな」と感じたりもしました。
ゲームの魅力として「こちらから主体的に行動を選べば、それに基づいて変化とフィードバックを受け取ることができる」というものもあると思います。
十字キーを押せばマリオが動くように、
負荷をかければ被検体が苦しむ。
他の事をすれば他の反応がある。
そんなやりとりが実は非常にゲーム的だったように感じます。
今でも時々「どうすれば彼は蛹になれたんだろう」と考えることがあります。でも、動画や記事を調べて蛹になる方法を知ったり、ましてその画像を見たいとはなかなか思えずにいました。自分の行動の結果を、そのまま受け入れていきたくなるような、そんな印象深い作品でした。ただ、とはいえ今回、意を決して作者によるネタバレを読んだのですが、びっくりしました。作品の意図も書いているので読んでいただきたいです。
今となっては遊ぶこともできませんので、よければ私も含め色々な方の実況で雰囲気だけでも味わってもらいたいです。
僕と彼女の人生バラ色 ー「物語」ー
仕事を失った主人公の男性が、その夜突然出会った女性に「一目ぼれした」と言われそこから二人の日々が始まっていく物語です。日々を重ねることで、彼女は何者なのか、なぜ彼女が自分の前に現れたのか、その目的は何なのかを知り、主人公自身の人生も大きく変化することになります。
ノベルゲームコレクションのタグに「ミステリー」が含まれていることもあって、彼女の素性はミステリー仕立てになっています。ここでいうミステリー仕立てとは、いわゆる「ノックスの十戒」などでも語られているような、与えられる情報がフェアなのでプレイヤー側でも推理や考察ができる仕組みになっているということです。そのため謎解き作品としても楽しめます。また、情報がフェアに出ているので実は結構飛躍した設定のある登場人物に実在感が生まれます。それにより物語とプレイヤーの距離感が離れないため「彼女」と主人公、それぞれの人生に強く触れていく感覚を受けます。それゆえに二人のロマンスはより心に迫るものとなっています。
加えてモノローグを効果的に取り入れた文章や、タイトル画面の布や紙感に代表される素材感実在感を感じる一枚絵、各章の話数の出し方など、あらゆる要素が非常にこちらの感情を揺さぶり、物語全体に独特の情緒を生みます。
またミステリー要素があることもあり、ちょっとした言葉、「彼女」の表情など、端々に伏線が張り巡らされています。あとで物語が進むたびに「あれってそういうことだったの…!」と、物語的な喜びを強く受けました。一つの物語、そして人生を「読み切った」という読後感が非常に強く、満たされた気持ちになったのを覚えています。非常に言葉にパワーがあり、「読む」という感覚が強い作品でした。なんとなく、作者は「物語」というものにとても強い想いとこだわりを持っているのかな?なんて想像してしまっています。短いながらも濃厚な物語体験ができる作品で、私も実況中どんどん心が動いていったのを覚えています。
あと個人的な話なのですが、先日映画「ルックバック」を見た際、細田守監督版の「時をかける少女」と一緒に今作のことを思い出しました。この話、私の物語観にに関わるのでしたいんですけどこの三作全てのネタバレになってしまうので…。
継接ネクロ 死霊術師と呪いの村 ー「残渣」ー
死霊術師(ネクロマンサー)と人形(ネクロドール)の兄妹が魔女の呪いに晒された村を訪問し、村人とやりとりをしつつその呪いの正体を見極め真実を知る短編のダークファンタジーRPGとなっています。
ちょっとでもリンク先のスクショを見ていただければわかる通り本当に雰囲気が最高の作品となっています。タイトル画面を見ているだけで満たされます。その世界観構築はあらゆるところで徹底されていて、映像、自作のBGM、セリフ回し、ストーリー、本棚などの細かい探索箇所から読み取れる言葉一つ一つ、その全てが辛くも優しく、静かでおしゃれで、何より美しく、それらを浴びるように感じるだけで心から楽しめます。
主人公の兄妹のキャラクターも本当によく、兄のルカが非常に余裕を感じさせる気取り屋で、一方妹のエレナは非常に淡々と話を進めていくという、その対照が静かかつおしゃれなこの作品に非常に合っています。また、村人もそれぞれに個性的ですし、その素性を知っていくたびにまた違う姿が見えていきます。
一報、この二人と共に迫っていく村の真実は、胸が苦しくさせるようなものでもあります。そもそも世界の色彩からして暗い雰囲気を帯びていますが、ストーリーもその雰囲気とリンクしつつもさらにより哀しいドラマが待っています。物語が進むたびに戦うことになるボスもその設定がシナリオと完全にリンクしていて、「あぁ…あぁぁ……」となってしまうような、胸を抉るようなシーンでした。今作は戦闘の難易度が決して高くないのですが、だからこそ、あまり苦労せず勝ててしまうからこそ胸が痛くなりました。
ただ、全てが終わった後、二人が、村の、村人の物語の残渣を掬いあげてくれたような感覚になったのを覚えています。そこには哀しさ、苦しさに合わせて優しさ、暖かさもありました。
私は作者様の前作が大好きで発表の段階から待ちわびていた新作ですが本当に待った甲斐がある、そんな素晴らしい作品でした。
映り変わってカラテレビ ー「痛快」ー
映りが悪くなっているテレビを空手チョップで叩いて直す短編アクションパズルとなっています。昔のテレビは映りが悪くなった時に叩いて直していたということから来ている作品なのでしょう。他にもテレビ画面の中の道を進んだり、テレビのチャンネルを変えてルートを変えたりワープをしたりとテレビの特徴を踏まえて作られたパズルギミックが楽しめます。
非常にレベルデザインが的確で、適度に悩めるけどいらいらするほど詰まることもなく、30分~1時間程度でさらっと遊べます。
何より、謎解きの面白さと、何よりテレビを叩いて直すというレトロな感性と、ファミコンというよりは当時のアーケードゲームやPCエンジン的な?ドット絵が非常に噛み合っていて、FM音源感のあるBGMとともに非常にいい雰囲気で遊べます。私は90年代的なレトロスタイルやそれを再現した作風も好きなので今作には非常に引き寄せられました。
もちろんここでは言えないギミックもありますし、クリア画面にあるちょっとしたあれもすごく好きでした。ぜひ手が空いた時に遊んでほしいですし、遊べばこの「映り変わって カラテレビ」というタイトルも「おお!」となるでしょう。今年のタイトル1位だと思います。
精神仕掛けの浪漫劇 ー「絢爛」ー
大正時代を舞台とし、主人公の少女が異国の紳士から神の世界にある鍵を探すよう頼まれて共にダンジョンを探索していく中編RPGとなっています。
自由にビルドできる戦闘システムやドロップで手に入る装備品の組み合わせ、バフやデバフの多様さ、行動順などを駆使しコンボや大技を繰り出していくなど非常に戦闘システムが練られています。
最近のRPG的な自在なキャラビルドが楽しめる作品です。ただ、実は本来私はその類の複雑な成長と戦闘を楽しむタイプのRPGが普段はそこまで得手ではなかったりします。育成の果てしなさや複雑性、そしてそれを楽しむために必要な手間と時間に、遊びきれてないということが結構あったりしました。ただ、今作はいくつもの工夫によってその手間や感覚が軽減され、非常に遊びやすく、そのシステムのよさを味わえました。たとえば、
・どこでもセーブができ、帰還も簡単
・BGMが食い気味に流れるほどテンポのいい戦闘
・クイック戦闘と自動戦闘アイテムを使って高速・自動で稼ぎができる
・かかっているバフ・デバフを一覧にして見られる
など、細部まで練られています。特にテンポの良さは本当に感動するレベルなのでぜひ味わってほしいです。それらの無数の工夫によって多彩かつ自由な育成を楽しめましたし、「キャラを育てて、強い敵に挑む」というRPGの原初的な楽しさをたっぷり味わうことができました。
「今苦しんでいるボスにはこれが効くんじゃないか」「こういうことをさせたら楽しいんじゃないか」など仮説を立てて、それを実際にやってみるのも非常に楽しかったです。また、ゲーム内でドロップするアイテムなどからなんとなく「この育て方で育てると遊びやすいですよ!」と強制するところまでいかない導線が引かれているので、そのあたりでも遊びやすくなっています。私はそれとは違う育て方をしましたが、それでもちゃんとクリアできたので自由さも確保されています。正直商業のRPGと比べてもこのシステムの面白さと快適さはかなりすごいんじゃないかと思っています。
ストーリーは大正文学、特に夏目漱石にオマージュをささげていると同時に、和風ファンタジーと欧米的なファンタジーが混ざり合った独特の世界観になっています。大正文学の影響があるだけあって各キャラのセリフ回しはレトリックと作品のモチーフである芝居的な言い回しが効いていて非常に読みごたえがありますし、そんなやりとりを読んでいるうちに自然とキャラに愛着が湧いていくでしょう。また「大正」という時代に私たちが憧れる、あの自由なデモクラシーの活気と御洒落さ、「ハイカラ」な感じが作品全体から溢れていて、その活気混じりの青春物語としても非常にいいです。あの若者同士の戦いのシーン本当によかったですよね…。
このように今作はあらゆる方向にクオリティが高く、終わった時万雷の拍手を送りたくなるような、そんな絢爛でリッチな作品です。大正好きの方、RPG好きの方、青春物語好きな方、あとイケオジやかっこいい女性が好きな方など、多くの人に遊んでほしい作品です。
あ、今作最大の仕掛けについてはここでは何も言いませんのでぜひ遊んで体験してほしいです。
ベスト1
シルヴァーレコードにおやすみを ー「宇宙」ー
あるアンドロイドが宇宙を100年に渡り探査する物語です。
今作は本当に「宇宙」を感じる物語でした。
青と黒を基調としたデザインやBGM
そこで起きる出来事のスケール感
アンドロイドならではの人間と近いようで違う語り口
この作品から得られるすべてのものが本当に宇宙を感じさせてくれます。
私たちが深夜に窓の外を見上げて空の先にある星空と宇宙へ思いを馳せる
宇宙に関する本やドキュメンタリーを見て、脳内に銀河やブラックホールを広げる
そんな時に浮かぶ美しさへの感動、未知なるものへのワクワク、そして果てのなさや暗さ、冷たさから感じる少しの怖さまでものがこの作品を見た時にリフレインしてきました。細やかな演出、BGM、文字のフォント選択、UIと何から何まで本当に完璧で素晴らしく、語りの一言目、いやその前のちょっとしたチュートリアルから一気に物語の世界に引き込まれていき、最後まで宇宙、そしてこの物語にときめいたまま最後の最後まで自分の心の高鳴りと共に読み終えたのを覚えています。
また、これだけ大きなスケールの物語でありながら物語の中で起きる葛藤が自分の人生にも反響するような主題が含まれています。胸をきゅっと締め付けるような切なさを受けながら物語は進み、最後には自分の人生について少し前向きになれそうな、そんな読後感を受けました。実況禁止作品ですし超短編作品ですので具体的なストーリーについてはここで触れませんが、ぜひ皆様で、この小さな宇宙へと飛び込んでほしいと思っています。
毎回ベストフリーゲーム記事を書く際に申し上げることですが「ベスト1」というのは特別な意味を持つものだと思っています。
今年の上半期、私には色々なことがありました。いいこともいっぱいありましたし、いい作品にもいっぱい出会いました。もちろんネガティブなこともあったけど、総体としては幸せなだったなと思います。でも、そんな半年間の中で、「シルヴァーレコードにおやすみを」を遊んだあの20分が、この半年間で一番ときめいていました。それだけは間違いありません。私の好きな言葉に「Sparkjoy」という言葉があります。こんまりさんの使う「ときめき」の英訳として使われる言葉で、その「Sparkjoy」を今年一番感じたのが「シルヴァーレコードにおやすみを」でした。このときめきをそのまま皆様に伝えたい!と思い、今回ベスト1に選ばせていただきました。
おわりに
今年は初めて通年ではなく上半期だけで10選₊ベスト1を決めさせていただきました。実際やってみると「あ、これでよかったな」と思えるほどすぐにリストが埋まりました。それだけ素晴らしい作品にいっぱい出会えたということなのだと思います。
改めて、今回紹介した作品、紹介しなかった作品も含め、全ての作品のクリエイターに感謝と敬意を申し上げます。下半期に出会える素晴らしい作品に思いを馳せ、Sparkjoyを抱きながらこの記事を締めたいと思います。
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