超話題のフリーゲーム「アクアリウムは踊らない」完全版レビュー【ネタバレ最小限】 「水」の二面性と描かれる「命」と「魂」の美しきパニックホラー
まえがき
今回紹介するのは水族館を舞台とした超話題のフリーホラーゲーム「アクアリウムは踊らない」になります!
かねてより前編のみ公開されていた作品ですが、2024年2月15日、ついに完全版が出ました。各ゲームメディアでも話題になったので目にした方も多いのではないでしょうか?
私はかつてVtuberになる前に前編を遊びレビューを書いています。今回はついに完結編をプレイしたその感想と「ここがいい」というポイントを書いていきます!
なお、過去記事の前編レビュー、本記事共に最低限のネタバレを含みますので、ネタバレをせずに楽しみたい方はぜひ記事を読む前に上記のリンクから遊んでください!!
こんな人にお薦め!
あらすじ
ゲーム内容
「アクアリウムは踊らない」のゲーム自体はスタンダードな2D脱出ホラーです。
プレイヤーはスーズという少女を操り、異界と化した水族館から脱出方法とはぐれた友人や仲間を求めて探索や謎解きを進めていきます。
探索中、スーズたちは様々な謎や恐怖現象、そして怪物の襲来に見舞われます。それを操作と思考で切り抜けながら進むのが本作のメインのゲームプレイとなります。「青鬼」や「魔女の家」といったツクール製の有名ホラーゲームを知っていればなじみ深いシステムでしょう。その類のゲームに知識がなくても、攻略のヒントはセリフなどゲーム内の各所、あるいは公式サイトにありますので適度に悩んだり苦労しながら楽しんでいくことができると思います。ただ即ゲームオーバーになるデストラップがそこそこの量ありますのでこまめにセーブポイントであるカメに話しかけることが推奨されます。ただ今作はゲームオーバー画面が本当に美しいので、一度は是非やられてゲームオーバー画面を見てほしいと思います。
今回の完結編は、前編の内容も含んだ完全版となっています。なので前編をわざわざダウンロードする必要はありませんし、前編のセーブデータを引き継ぐということもできません。前編の内容に関しては映像や演出が増強され、謎解きもスムーズにできるよう変更がされています。
で、どうだった?
感想は「感無量」という言葉につきます。当時あれだけのインパクトとパワーを感じた作品がしっかりと完結してくれたことへの喜びがとにかく強く、プレイし終えたときに非常に「満たされた」気分になりました。怖いところは本当に怖かったですし、謎解きも過度に難しすぎず楽しむことができました。そして何より「物語」として本当によかったです。キャラクター一人一人の結末に満たされましたし、展開に驚かされたり、思わず笑顔になったり、感動するところが随所にありました。今作に出会えたこと、そしてこの2年間追いかけることができたことには感謝しかないです。
以下に「ではどこが好きか」を書いていこうと思います。
ここ好きポイント①細部のこだわりから生まれるパニックホラーの「怖さ」と魅力的な世界やキャラクターたちが生むドラマと葛藤
今作はパニックホラーにあたる作品です。異世界と化した水族館で謎の恐怖現象に苛まれたり怪物に追いかけられたりしながら探索や謎解きをしていきます。
前編のレビューでも書いたように、ホラー表現とは単に怖いものを出して、その見た目や音声が怖いから怖くなる、というものではありません。それぞれに目指す怖さにあった演出が必要です。
「アクアリウムは踊らない」はそれを出すタイミング、出す前の予兆、メリハリ、その恐怖に対するキャラクターの反応など、細部を細かく工夫することで怖さを作っています。
また、水族館モチーフらしく青を基調とした映像に血の赤色が映えるというのも恐怖を煽ってきます。そのような映像の美麗さも、その美しさ自体を楽しめると同時になんともいえない怖さを演出しています。BGMがピアノベースのきれいな曲が多いのもそれを強めてくれます。
前編の部分で恐怖演出がかなり増えていたのもあり、既に前編を遊んでいた私でも、当時と同じようにあるいはそれ以上に「この先何が来るんだ…?」「あんまり行きたくないなぁ」と手に汗を握り、その感触に「ああ、この感じだ。今自分はアクおどを遊んでいる…!」と思いながら遊ぶことができました。もちろん後半部分でもたっぷり怖がらせてもらいました。
また、「血」や「被害」の描写やいわゆるジャンプスケア(大きな音や映像の強い変化で怖がらせる手法)がかなり早いタイミングから多用されています。それも、ひどい事態を見て「ああなってしまったらどうしよう」と思ってしまって恐怖を感じるパニックホラーという形式によく合っていました。ジャンプスケアのSEがかなり大きめだったのもおそらく意識されているのでしょう。
また、今作の更なる、そして私が考える今作最大の魅力として、そのパニックホラーの舞台に配置される各キャラクターが単に恐怖を与えるだけの存在ではないということがあります。
今作のキャラクターは人間であれ、この水族館にいる謎の生物であるクリーピーであれ、「人格」や「性格」を感じさせてくれる存在が多いです。それぞれに目的や生活感さえあったりします。そこからそれぞれのキャラクターの魅力が生まれ、そこに感情移入やドラマを感じられます。クリーピーについてのある真相がわかる文章群を読んだ時には何とも言えない気分になりました。特に物語の中で重要な役割を果たすレトロには強い存在感を覚えるでしょう。私も好きなキャラです。一番心に残ったのは誰かと言われるとあの結末も含めてクリスかな…?
今作における「怪物」であるクリーピーも単にスーズを襲ってくる存在というだけではありません。もちろん襲ってくるクリーピーもいますが、中には行動や言葉でコミュニケーションをとってきたり、この異界の中で生活をしている姿が垣間見えたり、協力をしてくれるクリーピーもいたりと、多様性を持った存在として描かれています。
それらのキャラクターの人格描写が丁寧になされ、それにスーズが反応する様子もしっかりと描写されているため、迷い込んだ恐怖の水族館がただの脱出するべき舞台から、そこに命があり、生活があり、悲喜こもごもがある「世界」となっています。それにより、主人公としてプレイヤーが操作するスーズではない他のキャラクターが危機に瀕することでもプレイヤーとスーズの感情が揺さぶられ、ゲームプレイへのモチベーションや葛藤が生まれます。
ここ好きポイント②「水」の持つ二面性を軸とした「恐怖」と「命」の物語
今作を遊んでいて改めて感じたのは、「水」の表現を徹底的にこだわっていて、それがゲームプレイにおいても重要であることです。
パニックホラーとしての恐怖演出も水族館の水槽や水流を使ったものが随所にあります。クリーピーが水棲生物にモチーフを持っているのも大きな特徴です。
主人公のスーズは水が苦手です。ゲーム中、その恐怖の根源となる記憶に関する描写が何度も繰り返されます。そして物語が進むごとにその秘密が明らかになり、物語の結末へと繋がっていきます。
恐怖描写以外にも水を使った表現が使われています。たとえばゲーム開始の際にボタンを押すと「チャポン」という水音がなり、スタート時の注意喚起文にはぶくぶくという、酸欠や窒息を想起されるSEが入ります。これによってすっとこの作品の世界に入っていける非常に秀逸な演出です。各水棲生物の解説も非常に多く、豆知識も得られますので実際に水族館に行ったように学べる作品でもあります。特にクラゲの解説は興味深く読めました。青色の色彩も多彩で美しいです。
「水」や「海」は「生」と「死」という強烈な二面性を持っています。
まず、私たちが生きるにあたり水はかかせません。
私たちの体内の60%は水分だとされています。飲み水や衛生のための水は毎日必要とするものです。「母なる海」などと言われる通り、水は多様な命を育みます。夕陽のかかる海面、海底、滝など、心を動かす美しい水の光景も無数にあるでしょう。海洋探索、海に沈むお宝、資源など水に絡むものにはワクワクするものもたくさんあります。
一方「水」や「海」には恐怖や死のイメージもつきまといます。
水死、沈没、津波、海底にいる謎の生物などなど、水や海にまつわる恐ろしい表現は数えればきりがありません。私は小学校高学年頃までプールの水に顔をつけることができなくて泳げませんでしたが、それも銭湯で溺れかけたという記憶から来ています。
今作はパニックホラーでありながら生命の美しさを感じさせてくれるなど、「恐怖」と「命」という対照的なイメージが両立していると感じます。それを成し遂げるための軸には水の持つ「生」と「死」という対極なイメージがあるのだと、今回完結編を遊んでいて改めて気づきました。
上記のような、おそらく多くの方が共有しているであろう相反する感覚をゲームプレイに投射しながら遊ぶことができます。それが今作に身近さと没入感、そして世界観の統一感を与えてくれます。今作を遊ぶと、オープニングからエンディングまでピンと一本筋が通っていると感じましたが、それはこの「水」というモチーフの統一性にあるのでしょう。
ここ好きポイント③実は熱いドラマと結末
エンディングまで遊んだあと、私の中に最も強く残ったのはストーリーの「熱さ」でした。今作は水というモチーフを使ったホラーでありながら「熱血」という言葉を使いたくなるぐらい熱い展開が待っています。特にメインキャラクターたちには本当に心が熱くなりました。
その中で主人公であるスーズの成長と、友人・そしてこの世界で出会った仲間との交流や絆が重ねられ、それぞれの思いが相克していきます。それに伴い、今作は人間ドラマや青春ものとしての「熱さ」を帯びます。あらすじに「裏切り者は、誰だ」とあるように、キャラクターの正体・真相をめぐる、手に汗を握るようなサスペンス展開も待っています。
「水」の持つ「生と死の二面性」が重要だと前述しましたが、今作にはさらに「水」の持つ「冷たさ」やゲーム全体が雰囲気として持つ「静けさ」、それとストーリーが持つ「熱さ」の対照も物語を盛り上げているのでしょう。世界が基本的には静かで、スーズも普段はクールだからこそ、彼女が重要な部分で見せる熱さやさりげない優しさが本当にグッときます。最終局面でボソっというあの一言は本当に痺れました。
特に後半では「誰かのために恐怖と向き合う」ことがストーリーとしてもゲームプレイとしても求められていき、どんどん「熱さ」が加速していきます。さらに前半から張られていた伏線も完結編で美しく回収されていて、一本芯のあるストーリーラインが美しくできあがっていることに感服しました。「あー!あれああいうことだったのか!」「あれあいつだったのか!!」など、プレイしてテンションがあがり、また感動を覚えました。この辺の筋のきれいさは非常に映画のシナリオ的だなとも思います。誰か映画化企画してみては?
エンディングはこのタイプのホラーアドベンチャーでは定番のマルチエンドです。
「あぁ…」「うわぁ」「これじゃだめだったの!?」となるような、ホラーらしい苦い余韻の残るエンディングもとてもよかったです。ただ、私が一番好きなのはスーズがこの物語と「水への恐怖」にある結論を見せる、おそらくはトゥルーエンドといえるエンドでした。「そうだよね!もう終わり方はこれしかないよね!」と思わせてくれた、非常にシンプルで王道ながら、むしろ王道だからこそグッとくるエンディングでした。セリフ、光の表現、水の表現、全てがこの物語の終幕にふさわしい、最高のエンディングでした。青春ものらしい、スーズの成長物語としても本当に美しかったです。
あとがき
「アクアリウムは踊らない」は、前編を遊んだ際に私が「これはリアルタイムで遊んだことを自慢できる作品になる」と思った通り、あるいはそれ以上のより多くの人を巻き込むパワーを持った作品となりました。
そうなった理由には「一緒に作ろうと言っていた仲間が全員蒸発した」「8年かけて作った」「ホラー嫌いが作ったホラーゲーム」などのパワーワードが話題になったのもありますし、それを含めて広報・宣伝が成功したというのもあるでしょう。ただ、もちろん重要なのは計算と研究を重ねた結果生まれた今作のクオリティですし、そして最も大切なのは、そこに込められた作者の「魂」だと思います。
私の好きな言葉に「新・中華一番!」というマンガで主人公の師匠にあたるキャラが言った「料理は心で作るもの、だが心で作るには技術がいる」という言葉があります。今作の事を考えるとその言葉が思い出されました。
グラフィック、BGM、演出、ストーリー、デザインその全てに技術が生きていて、その技術によって作者の「魂」が強烈に焼き付けられた、だからこそ多くの人の心を動かす作品となっているのが今作です。エンディングで事態の解決に向かうスーズの姿はまるで作者の魂がそのまま乗っかったようで、圧倒的な「熱さ」と、ついにこの結末までたどり着いたことへのカタルシスがありましたし、「ああ、この作品を追いかけてきてよかったなぁ」と改めて感じられました。本当に渾身の一作です。
「アクアリウムは踊らない」にはこれからもグッズやイベントなど様々な動きがあるようです。これから海のようにさらに大きくなっていくであろう今作を、ぜひ触れてみては遊んでみてはいかがでしょうか?
おまけ
今作は私も実況しています!よければプレイ後に見ていただけれると嬉しいです!
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