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跡部はなぜロミオに「クニミツを倒した男だ」と言ったのか?手塚と跡部の名勝負から読み取れる跡部の呪縛

今回は跡部様の話ですが、1月号のラストで跡部様はスペイン代表のロミオを相手に「クニミツを倒した男だぜ」と啖呵を切ってS3を辞退して日本に帰ろうとするのを踏み止まりました。
なぜ日本へ帰ろうとしたのかというと入江に0-5でボロ負けしていたにもかかわらず、そこで勝負を中断されて不完全燃焼のまま入江の棄権負けという名の出来レースで決勝に進んだからです。
「敗者切り捨てでやってきた俺が……」と言っていたことから、跡部様はこの結果に納得することができず、自分を「敗者」として切り捨てようとしていたのでしょう。
しかし、そこからどうしてロミオ相手に啖呵を切ったのか謎です、傍から見るとあれは過去の栄光を自慢していることになり、はっきり言って無様なことこの上ありません。

跡部様はそれを百も承知で屈辱を耐えることを宣言していますが、そもそもなぜ今更になって跡部様は手塚を倒した関東大会初戦のS1の記憶を持ち出してきたのでしょう?
しかもこんな時に限ってテニミュが関東氷帝戦をやっているというのが何とも奇妙なものであり、折角なので旧作のあの名試合を振り返り、分析してみます。
良くも悪くもあの手塚と戦った夏の日が跡部様のテニス人生に大きな影響を与えたと言っても過言ではなく、初めて手塚に出会って自分の価値観に大きな変化はが生じました。
全国氷帝の越前リョーマの試合とはまた違うあの試合は跡部様が初めて「自分のテニススタイルで相手を屈服させることができなかった試合」だったのではないでしょうか。

個人的にあの手塚と跡部の試合は本当に名試合だったのかというと疑問です、というのも後付け設定も含めて考えればあの時の手塚は明らかに弱体化していたからです。
百錬自得の極みも使えず左肘は完治していたものの、そこまでに左肩を酷使しており跡部は手塚に心理戦を用いて揺さぶりをかけ、勝負を急がせようとしました。
しかし、手塚はその誘いを意に介さず最後まで持久戦を挑んで来て、それに動揺した跡部は「手塚あ!バカな、敢えて持久戦を挑んで来やがるとは」と狼狽していたのです。
そして手塚の左肩が限界を迎えてタイムアウトを取った時、跡部は全く嬉しそうではありませんでしたが、その理由は自分の思い通りの展開にならなかったからでした。

手塚はこの時大和部長の約束を果たそうとしたわけですが、これには実は自己犠牲だけではなくもう1つの意味があるのですが、それはまた後の機会に。
そして跡部様はタイブレークの途中に考えを改めるのですが(決して改心したわけではない)、ここから読み取れることは手塚が跡部様にとって規格外の選手だったのでしょう。
実力もそうですが、何より精神面において自分の左肩を故障しようと青学のために戦い続ける手塚の姿を崇高だと認めたわけですが、それでも最後まで嬉しそうな顔をしませんでした。
普通なら僅差で勝ったらもっと喜んでも良さそうですが、その理由は跡部が精神面の強さにおいて手塚に勝った気がしなかったからではないでしょうか。

跡部様は敗者切り捨ての実力主義でやっており、随分と高飛車なビッグマウスが目立ちますが、プレイスタイルや性格はそれとは裏腹に泥臭い秀才タイプです。
しかしそのように振る舞うのは小さい頃から叩き込まれた帝王学の賜物であり、それは以前も跡部様のキャラ考察で触れたので省略します。

彼の自尊心の高さは「ノブレスオブリージュ」、すなわち幼少の頃から叩き込まれて来た帝王学の賜物であり、家系の教えとしてそのようにプライド高く育てられたのです。
そして相手をその帝王学で叩き伏せて自分に跪かせ、崇め奉るように仕向けることで自尊心の高さを満たすという、よくよく考えなくても凄く嫌な性格でしょう。
しかし、そんな跡部様のノブレスオブリージュですらも叩き伏せることができなかった初めてにして唯一の男が手塚国光だったと思われます。
越前リョーマは同じように英才教育を受けて育った唯我独尊タイプですからどちらかが倒れるまで戦えばいいですが、手塚はそのような人間ではありません

決して油断せず最後まで安定したストロークで戦えているわけであり、それに加えて手塚ゾーン・百錬自得・零式ドロップにサーブまで持っています。
そんな男は跡部様からすれば畏怖の対象となるわけであり、いくら試合に勝ったとしても勝負に勝ったという気はとてもしないのではないでしょうか。
それ以来跡部様の心の中ではずっと手塚のあの日の試合が脳裏に焼き付いており、新テニで世界大会が大詰めに入った今になってもまだあるものかもしれません。
このように読み解いていくと、新テニでなぜ跡部様がわざわざずっと醜態を晒すようなことをし続けて来たのかもわかります。

手塚から「柱」なるものを受け継いで第二の手塚になろうとしたこと、また仁王を手塚に擬態させてダブルスを組んだこと、そして跡部王国に氷の皇帝への進化と経営学のキャンセル、樺地の追放。
もはや暴走機関車と化して正気を失っている跡部様ですが、ここで一番忘れてはならないのはプレW杯のドイツ戦で手塚・QPコンビにぼろ負けして膝をついてしまったことです。
何という皮肉でしょう、それまで何があろうと膝をつかなかった自尊心の塊である跡部が一番ひれ伏させたいと思っていた手塚の前に跪くことになってしまいました
人間、自分が人に対してして来たことは己に跳ね返ってくると言いますが、跡部様も散々敗者を切り捨てて人を跪かせて来た結果自分が敗者となって跪く負犬となったのです。

そしてそれを引きずって燻ったまま本気の入江を打ち崩すこともできずに0-5、もはや旧作で散々やらかして来たことのツケを今になって払わされているように思われます。
もはや見ていて可哀想なぐらいかっこ悪い男として描かれていますが、それでも敢えてロミオ相手に手塚を倒したマウントをしたのは跡部様にはそれしか縋るものがないからでしょう。
跡部はきっと「第二の手塚国光」になりたいのではなく、手塚と同じくらいの実力と覚悟を手にした上で拮抗した勝負をし、その上で真っ当に手塚に勝ちたいということではないでしょうか。
しかし、本人も知らず知らずのうちに心が過去に呪縛されており、視野狭窄に陥って本質を見失ったまま足場がガタガタの状態まで来ていることに気づいていません。

ということは、やはり私の予想ですが決勝S3は仮に跡部が進化したとしても負ける気がします、今の危うい精神状態のまま勝てるような相手ではないでしょう。
そしてそのロミオは鎖に繋がれた男、まさに心の鎖に雁字搦めに縛られた彼のメタファーではないかという気がするのですが、許斐先生は跡部様のこれにどう落ちをつけるのででしょうか?
あんまりにもハッピーエンド過ぎてもダメですしバッドエンド過ぎても後味悪いので、ぜひ納得いく結末を用意して欲しいところです。


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