骨と石を想う休日
先日行った東京国立近代美術館の帰り道、大丸東京店でやっているバレンタインフェアでものぞいてみるかと東京駅へ行ったので、ついでに、KITTE 2Fにあるインターメディアテクへ立ち寄った。説明しておくと、こは東京大学の研究室の収蔵品の博物館で、動物、植物、昆虫、化石、鉱物など、あらゆる標本が展示されており、まるで図鑑が実体化したような空間である。8割がコレクションで、2割たまに企画展がやっていたりする。今回は仏像と蓄音機だった。そのためほとんど入れ替えはないが、何度でも行って眺めたい大変お気に入りの場所なのだ。
入場無料かつ東京駅なのに人が少ない(いつもほぼ貸切)というところもお気に入りポイントだったのだが、この日は休日ということもあり、わりと人が多かった。ややテンション下がり気味で、コインロッカーに傘と荷物を預けて展示室へ。
入った途端、いやいや、ついさっきの負の感情はどこへやら、なんだこの落ち着く空間は。こんなところ(失礼)に興味を持つ人が多いのは良いことだな!なんて我ながら虫がよすぎるなと思ったが、お気に入りの場所に変わりなかったことに安堵した。
「アヤメくんののんびり肉食日誌」という漫画をご存知だろうか。
ちなみに、調べたら2017年に実写化されていた。知らなかったのでびっくり。
いちおう恋のお話なのだが、その舞台がやや特殊で、主人公が所属しているのがT大学理学部の古生物学研究室、という設定なのである。Takkyu Ishino似の教授のもとで、動物の死骸をもらってきては解剖し、白骨にしてはきゃっきゃ喜んでいる人たちの集まりで、初見はなんじゃこりゃー!だった。古生物=古い生き物、つまり最終的には恐竜など古代種の発掘・解明が目的なのだが、そのためにまずは現代に生きている動物について学んでいくというわけである。鳥や爬虫類から大きいものでキリンやサイまでも死骸を貰い受け、解剖し、骨にしていく。粗方解剖して、これがどの筋肉、どの内蔵だの確認し、肉を取り除いたら、早く腐食させ骨にしたいため土に埋めてバクテリアに分解してもらったり、肉を食べる虫の水槽に入れたり、それはそれもう未知の話ばかりで、著者の町麻衣先生のリサーチ力に頭が上がらない。
父の影響で、もともと恐竜が好きだったし、土曜の夜は必ず「世界ふしぎ発見!」を見て育ったため、考古学という学問は知っていたが、古生物研究とはこの漫画で出会った言葉であった。よくよく考えればたどり着けたはずなのだが、自分の浅はかさを悔やんだ。これから恐竜が好きなんて軽々しく言ってはいけないと肝に命じた。
漫画「アヤメくん〜」では、「プレパレーター」という職業が登場する。和訳するなら「標本屋さん」とでも言えば良いのか、要するに、発掘した化石を綺麗にして展示できる状態に修復する仕事だ。出てくるのはニューヨークでプレパレーターをしている日本人なのだが、その人曰く、日本ではあまり確率されていない職業で、発掘や博物館職員の仕事の一環としてあるのだそうだ。その背景には、研究費というものが、どうしてもこれからの未来を担う医療などに割かれてしまう傾向にあり、昔の研究をする学問にはあまりまわってこないという大人の事情もあるのだとか。こういうところに日本の憤りを感じてしまうのは私だけだろうか。
現在、ドバイでは1年遅れの万博が開催されている。テレビで見たまでだが、それはそれは豪華絢爛、石油王たちの豪遊が目に浮かぶ。
そもそも万博=万国博覧会とは、産業革命後に自国の技術力をアピールする場だと思っているのだが、ロンドンのハイド・パークで開催された記念すべき第一回万国博覧会が開催されたのは、1851年。その頃の日本はというと、まだ江戸時代である。刀を持ったちょんまげ侍が行き来している頃に、ロンドンではクリスタル・パレスというガラス張りの建物が建造されていた。(※写真は移築後)
はたまた現在、東京国立博物館で「ポンペイ展」が絶賛開催中だが、ポンペイが火山灰に沈んだのは、紀元後79年、日本はまだ弥生時代ではないか!?
まだ自国の国土でさえ思い描くことがなかったであろう弥生の民がようやく「狩りから稲作へ」(by レキシ)、定住を覚えた頃に、ヨーロッパでは水道や馬車道が配備され、食堂、浴場、宿泊施設などが集まる街ができていたわけで、ついでに言うと「テルマエ・ロマエ」でルシウスが温泉施設の建設に悪戦苦闘していた古代ローマ時代も紀元後1世紀の話であり、15世紀、スペインやポルトガルが新たな大陸を目指していた大航海時代に、日本では伊能忠敬がようやく日本地図を完成させたところだった。
今の日本の生活水準を考えると、戦後日本の高度経済成長がとんでもない角度での成長だったと想像するが、この超超超出遅れたスタートが、今日の国民性として未だに足を引っ張っており、欧州各国が当たり前のように進めている研究だの、環境問題だのに追いつけずにいるのではないかと、骨や石を見ながら、考えた休日だった。
と、強めに書いておきながら、自分はもろもろの専門家ではないので、以上はすべて個人的見解であること付け加えておく。悪しからず。