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アルコール度数0%の恋

恋に破れては酒を飲み、酒を飲んでは恋に落ちる毎日だった。
大学2年生、20歳のあたしは、とにかく全てがだらしなかった。
毎晩好きなだけ酒を飲んだ。嫌なことがあれば、もっと飲んだ。
芋焼酎が好き。酒は強くないから、黒霧島を水で薄めて2杯も飲めばベロベロになった。酒癖は最悪で、路上で飲みながら泣いたり、寝たりすることはしばしばあった。街行く人に迷惑をかけていた。
翌朝むくんだ体で起きて、今までのことを思い出す。
「うわ・・・最悪だ・・・」
そんな気分さえも、また酒を飲んで流した。

ずっとそんな風に生きてきた。
元彼に
「酒癖悪いねん。マジで酒やめろや」
と本気で怒られたこともあったが
「お前と酒なら酒。男と酒天秤にかけて、男が勝つわけないだろォ!」
と黒霧島片手に怒鳴った。彼は諦めていた。

夫と出会った日も、あたしは昼から1人で酒を飲んでいた。
彼と出会ってから、彼とは週1ペースで飲んでいた。いつもの安い居酒屋で、安いチャミスルのボトルを半分こ。すぐに酔ってしまう。ベロンベロンのあたしを見た男の人は大抵「けっこうギャップあるね・・・」と苦笑いし、以後連絡がなくなる。
しかし彼は、どんな時も笑っていてくれて
「面白いからまた飲みたい」
とも言ってくれた。
帰りの路線は違うけれど、いつもあたしの改札まで見送ってくれて、帰りの電車はベロベロで2人でラインのスタンプを連打しあった。楽しかった。

ある金曜日、終電を逃しかけたらこの人はどうするんだろう・・・と思って、あえて終電近くなっても何も言わずに酒を飲んでいたことがある。
「うわ!?もう終電前やん!!!」
彼は急いで会計を済ませ、
「走るで!」
と、ヒールのあたしと一緒に駅まで走る。
「ごめん!今日は送られへん!!」
彼は全速力で自分の改札へと向かった。

彼は革命だった。
一緒に楽しく飲んでくれて、酒癖に引くこともなくて、下心もないなんて。そんな男の人、今まで見たことがなかった。
そんなこんなで彼と知り合って1か月で、あたしは彼のことが好きになっていた。

告白はあたしからした。
酒には頼らないでおこう、そう決めたのに結局ベロベロで告白した。飲みすぎて2回告白して、次の日には付き合ったことも忘れていた。最悪な女だと思う。

彼と付き合っても、あたしは変わらなかった。
好きなように酒を飲んでいたし、酒を飲むと鬼電する癖もそのまま。彼は驚いていたが優しかった。

しかし彼と付き合って1か月が経過した頃、友達といつものように飲んで、いつものように彼に鬼電をしたところ、全く連絡がなかった。次の日も連絡がなく、朝ご飯を吐いた。体調が悪くて、会社を早退した。
彼がいなくなることを考えたら、生きた心地がしなかった。
「酒なんて飲まなきゃよかった・・・」
そう思ったことは何度もあったが、今までで1番深い後悔だった。
あたしは彼のような人を見つけることができて、しかも交際に至れた奇跡を、酒に溶かしていた。

あたしは酒をやめる決意をした。
初めは1日飲まないことすら辛かった。会社のトイレで泣いたこともある。
それでも「あの日の後悔に比べれば」と酒を断ち続け、約1年が経過した。もう酒を飲みたいとも思わない。

「俺酒やめろとか、一言も言ってへんけどな・・・」
と彼は言うが、あのまま飲んでいたら今の幸せはなかったと思う。

最近はチャイにハマっている。
彼がビールを飲みながらゲームをする横で、あったかいマグカップを握って、ゲームをする様子を眺めている。
2人で歯磨きをして、彼が寝室に向かうのをあたしは追いかける。彼は寝室にはいない。毎晩そのタイミングでどこかに隠れて、あたしを驚かす。この時間がすごく好き。幸せな結婚をしたと思う。

アルコールは魔法みたいだ。いつだって世界をキラキラにしてくれて、嫌なことを忘れさせてくれた。でも彼がいるなら、もういらない。彼はアルコール以上の魔法をかけてくれる。ノンアルコールの幸せに、チャイで乾杯。

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