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国会の会議には型がある?ロバート議事法でおすすめの調理器具を審議する実験

おたまじゃくし研究所では、ハーモニーのあるコミュニケーションを実現するために、人間同士の話し合いデータを研究しています! note では、話し合いの研究成果や分析方法を公開しています。なお、話し合いの計測には、分析機能付きのWeb会議システム Hylable を使っています。
※ 普段、研究論文ばかり書いているので気を抜くと文章が堅くなりますが、今回はそのまま堅くしています!
スキやコメントなどお待ちしています!


世の中にある会議の型を探そう

おたまじゃくし研究所では、ハーモニーのあるコミュニケーションのパターンを作ることを活動のひとつにしています。コミュニケーションのパターンを考えている人には他にもいるはず!ということで、世の中にある会議の型を探しました。

そして見つかったのは、ロバート議事法です。

ロバート議事法とはアメリカ合衆国陸軍の少佐であったヘンリー・マーティン・ロバートがアメリカ議会の議事規則を元に、もっと普通一般の会議でも用いることができるよう簡略化して考案した議事進行規則。

Wikipedia

ロバート議事法が生まれた意義

ロバート議事法に期待される効果は会議の公正性、平等性、議論のスムーズな進行などがあります。その中でも今回、調べたいのは「議論の平等性」についてです。例えば議論を行う際に様々な組織で、「特定の支配的な参加者が議論を支配している」や「発言のタイミングが決められていないため発言ができない」などの問題があると思います。
このような問題に対してロバート議事法を用いることで「どの議論参加者も公平に発言が可能になる」、「どの人物が発言する時間か明確になる」などの利点が得られると思われます。
本記事ではロバート議事法の効果を検証するために、おたまじゃくし研究所でロバート議事法を用いて議論を行ってみました。

ロバート議事法(おたま研特別仕様)

ロバート議事法は、細かいルールがあったり、採用している会議によって微妙に違いがあったりします。そこで、実験するためにルールをシンプルにすることにしました。今回、ロバート議事法をベースにしたおたまじゃくし研究所で試してみるためのルールは以下の通りです。

会議の参加者は次の4つのことができる
1.会議への参加
2.動議(何かを提案すること)
3.会議中の発言
4.投票

このルールのうち、3だけはいわゆる普通の会議と大きく違います。議論参加者はいかなる発言を行う前にも挙手を行い、議長からの指名(Recognition)が必要です。この指名によって議論参加者は発言権を得て、発言が可能になります。

おたま研でやってみた

今回のテーマ

今回、おたまじゃくし研究所のメンバーで話し合うテーマは「水本所長が次に買うべき調理道具」についてです。

水本所長

水本所長のプロフィール
ハイラブル株式会社の代表取締役CEO 兼 おたまじゃくし研究所の所長
趣味:料理
得意料理:タコス🌮
水本所長がハイラブル株式会社で振る舞う手作り料理(通称:社長メシ)は食べた人全員が絶賛するほど好評です!

角議員が提案を行った際の発話量を示すグラフが、ロバート議事法を分析するには分かりやすいため、角議員の動議をピックアップして分析します。(今回の議論では角議員以外にも井上議員、長尾議員がおすすめの調理道具を挙げてくれましたが、その内容は本記事の最後でまとめます。)

角議員の意見

会議が開かれると、まず初めに角議員が挙手し「所長が買うべき調理道具を決める」という動議を提案しました。

動議を提案する角議員、参加者全員がその動議に賛成


動議提案者でもある角議員がおすすめした調理道具は「ぶんぶんチョッパー5」でした。

ぶんぶんチョッパー5は忙しい主婦の味方!みじん切りがあっという間にできるベジタブルチョッパーです。使えば使うほど手放せなくなるキッチン雑貨なので、一家に一台必須のアイテムになること間違いなし!

公式サイト

角議員がこの調理道具をおすすめする理由は以下の3つ。

使い方を見せる角議員
  • 野菜のみじん切りが非常に簡単になる!

  • 非常に細かいので飴色玉ねぎが簡単に作れる!

  • その飴色玉ねぎを使えば、他の料理にも活かせる!

その後、水本議長は長尾議員の発言への質問・反対意見がある人への挙手を求めます。

長尾議員が挙手し、反対意見を述べ始めます

長尾議員「"玉ねぎのみじん切り"には包丁で玉ねぎをみじん切りする楽しみがあります。しかし、その調理道具はそういった料理の楽しみをすべて奪ってしまう道具です。水本所長は、出来上がった料理よりも、その料理が出来上がる過程を楽しんでいる。だから、その楽しみを奪ってしまう調理道具の採用に反対します!」

水本所長のように料理が好きな方は、食べたくなくても作りたいから料理をするというのを聞いたことがあります。なので、長尾議員の意見に一理あると思う方もいらっしゃるのではないでしょうか。

そんな長尾議員の反対意見に、角議員が再度挙手し意見を述べます。

角議員「水本所長には調理の楽しみよりも、忙しい中料理をして広報のためにSNSに投稿する疲労の軽減を重視していると思います。なので、この調理道具を使っておいしい食事の調理時間を短くし、栄養バランスの整った料理を仕上げることができる環境を作って欲しいと考えています。」

角議員は水本所長の忙しさを労り、調理がよりラクに、より時短で済む点を強調しました。続いて、水本議長は挙手した仲山議員の発言を許可します。

仲山議員「角議員の主張は”忙しい水本所長の手間のコストを最小化すること”だと思います。だとすると、手動のぶんぶんチョッパーよりも、ボタンを押すだけ済む電動ミキサーの方が良いと思います。なので、角議員の提案は論拠に基づくものではないと思います。」

ぶんぶんチョッパーを使う真似をする仲山議員

仲山議員は議論のテーマを角議員の主張する「手間」の部分に合わせて意見を述べました。
そして、仲山議員の意見への反対意見を水本議長自身が行いました。(本来議長は発言権はありませんが、特別に水本議長が発言します。)

議長かつ議員かつ所長の水本氏

水本議長「電動ミキサーにはコンセントが必要なため、"場所"という制約を受けます。対して、非電化製品である本調理器具は比較的に手軽に使うことができるので、良いものだと思います。」
水本議長の意見への援護として、再度角議員が挙手したのちに発言します。
角議員「ぶんぶんチョッパーは洗う手間が非常に簡便です。価格の面でも、電動ミキサーに比べて安価です。そして、回転数の調整が可能で料理の幅が広がります。」
水本議長「では以上で角議員の質問時間を終えます。」

ここで角議員の発言時間が終わりました。ここまでのようにロバート議事法では、
1.議員が挙手
2.議長からの指名
2.その議員が発言

という手順を必ず通る必要があります。では、実際にこの手順を踏まえて今回の議論がどのように行われていたのかを、"Web会議システム Hylable"を使って見てみましょう!

角議員の発言時間の分析

商品提案者(今回は角議員)には、まず初めに約3分の時間が与えられ、自身が勧める商品の発表を行います。そのため2分30秒時点までには、角議員が多く発言しています。その後、質疑応答フェーズでは、必ず質問者(赤色や水色)の次に角議員が発言しています。

またロバート議事法においては、議員が発言を行う際には必ず議長の承認が必要です。その為、ある発言者から別の発言者に発言権が移る際には、議長の発言を示す青色のグラフが必ず発生していることが分かります。

以上から実際にロバート議事法を用いることで以下の2点の効果があることが分かりました。
1.どの議論参加者も公平に発言が可能になる
2.どの人物が発言する時間か明確になる

この2点からロバート議事法を用いることで確かに「議論の公平性」がもたらせられることが分かりました。

余談:語彙に関して

主題とは少し外れますが、今回の話し合いで興味深いことが一つありました。それは「参加者の語彙や言葉遣い」に関することです。動議中、参加者は互いを「○○議員」、水本所長は参加者を「○○君」と呼んでいました。
本記事でも参加者の皆さんを、議員同士の呼び方の慣習に習い、「水本議長・○○議員」とお呼びしています。

話し合いとルール

ここまでは Hylable Adaptor を用いてロバート議事法による会議を分析しました。ここからはそのようなロバート議事法が議論に与えた影響を過去のおたま研の話し合いと見比べることで、より明確にしてみましょう。

過去のおたま研の話し合いと比べてみた

今回のロバート議事法のグラフと、以前おたま研で行ったビブリオバトルとのグラフを見比べてみましょう。

ビブリオバトルではプレゼンターに本のプレゼン時間と質疑応答の時間が与えられます。このグラフは同じく角研究員がプレゼンターだった際の質疑応答のグラフです。

角研究員がプレゼンター

ロバート議事法のグラフに比べて、時間内の主たる発言者(プレゼンター)の割合が非常に多いことが分かると思います。対して、質問者の発話量・割合が非常に少ないです。
またロバート議事法のグラフに比べると質問者とプレゼンターとのオーバーラップが多いことも特徴です。

これはビブリオバトルにおいてはプレゼンターが主たる発話者であり、質問者が質問する・意見を伝える時間が設けられていないことが要因だと考えられます。しかし、ビブリオバトルは自身のおススメする本を紹介するという特性上、聴衆よりもプレゼンターの考えや思いが重要視されます。そのため、質問者が質問する・意見を伝える時間がないことは問題ではありません。

議論の目的とルール

上で述べた通り、ビブリオバトルは「プレゼンターが本に対する考えや思いを伝えること」が重要視されています。そのため主たる発言者以外が意見を述べる時間を設ける価値が薄いです。
一方、ロバート議事法は「議題に対して意見を交換し、より良い案を作り上げること」を目的としています。そのため主たる発言者以外の発言者の発言・意見も重要視され、意見を述べる場を整えることの重要性が高いです。これによって多角的な視点からの議論が促進され、発言機会の平等が保証されます。

ここから分かる通り、議論の目的に応じてルールを適切に設定することで、参加者の発言を適宜促すか制限することが可能になり、議論の質と効率を高めることが可能になると考えられます。

まとめ

今回、おたま研では「水本所長におススメする調理道具」というテーマでロバート議事法を用いて議論を行ってみました。その結果、ロバート議事法の特性によって、明確に話者交代が示され、議論の平等性が向上しました。以前のおたま研の議論と比較すると、議論にルールを設けることによって大きな差があることも分かりました。
ここから議論の目的に応じて議論のルールを変更することで、議論の質を向上させることができる可能性も示唆されました。

筆者は小学生の時にディベートを行う授業でルールを学んだ記憶があります。しかし、実際に活用することはほぼなく、なんとなくで議論を行い、議論の進行に不満を感じることもありました。
読者の皆さんも議論が思うように進まない時には、会議や議論のルールの見直しをしてみると新しい発見があるかもしれません!

おまけ

井上議員のおススメ調理道具

井上議員がおすすめした調理道具は「注ぎ口の細いケトル」でした。

おススメする理由
1.注ぎ口のS字カーブがおしゃれ
2.注ぎ口が細いのでお湯の量がコントロールしやすい
3.蓋を開けてレトルトカレーを入れると調理が可能

注ぎ口の細いケトルはお湯の量やスピードがコントロールしやすいのが特徴です。(V60 ドリップケトル ヴォーノ・カパー)

公式サイト

仲山議員のおススメ調理道具

仲山議員がおすすめした調理道具は「南部鉄偶」でした。

おススメする理由
1.鍋に入れて一緒に煮込むだけで鉄分の補給ができる
2.インテリアとして鑑賞することも可能

青森~岩手で多く出土される遮光器土偶※がモチーフになっています。
溶出する鉄分を利用し、やかんや鍋に入れて鉄分補給のほか、貝の砂出し、黒豆やなす漬けの色だしなどに古釘の代用としてお使い頂けます。
安定して直立しますので、置物やオーナメントとしてもお楽しみ頂けます。

公式サイト

執筆:ハイラブル株式会社 アルバイト 橋本慧海

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