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#4(COVID-19)PCR検査は増やすべきか?

Should we increase the number of PCR tests?

2020/9/1

一般的に習う推測統計(%信頼区間、p値など)とは別に「ベイズ統計」という推定法がある。これは医師国家試験の頻出問題となっている。

現在のPCR検査は、
             感度(感染者が陽性と出る率)  70%、
             特異度(無感染者が陰性と出る率)99%
程度である。

例としてある集団の新型コロナの感染率(罹患率)が3%、1万人の検査を行うとする。
検査費用は2億円(2万円/人×1万人)程度となる。  

条件付き表

中学で習った条件付き確率で説明すると、表から
陽性率3.1%(307/1万)、
陽性が出たとき本当に陽性(陽性的中率)は68.4%(=210÷307)、陰性的中率は99.1%(=9,603÷9,693)である。

ベイズ表

的中率はコストや心理ショックに直結する。これはベイズの定理を使えば、
陽性的中率=感染率×感度/[感染率×感度+無感染率×(1-特異度)]
で計算できる。また偽陽性97人(1.0%)、偽陰性90人(0.9%)が出ることがわかる。

もし感染率(市中の罹患率)が変化したら図のようになる。これによると陽性者数、陽性率、陽性的中度は上昇する。偽陽性数、陰性的中度は横ばいだが、偽陰性数は上昇する。ここで被検者数を2倍にすると結果の人数と費用は2倍になり、率は変わらない関係にある。

判定グラフ

論点は、段階的にスクリーニングして人為的に検査対象の母集団の感染率を上昇させる点にある。市中の感染率が低い間は、陽性的中率を上げるために必要な操作である。保険補填の費用も下げることができる。つまり人為的にベイズでいう事前確率を上げることをするのである。こうすることで的中率をコントロールするわけだ。

今回、指定感染症となった直後は、検査キットや体制の不足に加え陽性者を入院隔離する措置がとられたため、検査数の増加は病院を逼迫させる懸念があった。感染症は、偽陽性の不自由さよりも偽陰性というお墨付きを与えてしまい、彼らがスプレッダーになる危険も怖い。よって感染率6%(陽性的中度82%、逆算で陽性率5.1%)程度に絞って検査することが理想だった。

 以上の説明を一般の人に納得してもらう事は難しい。医師も面倒でこのような説明はしないから、TVコメンテーターも視聴者もなかなか理解できず悩むのは当然である。検査が100%と信じる人は「早く全数検査しろ」となる。「検査しようがしまいが陽性者は陽性」と考えがちであるが、これと同じ構造の「モンティ・ホール問題」では、統計学者さえも間違え、納得しなかったくらいだ。国家試験を通った医師ですら本当に理解できていないかもしれない。

それでも陽性者が検査できない危険(偽陰性もどき)が上回れば、一周回ってベイズより庶民の直観の方が正しくなる。
さらに感染率が上昇してくれば絞る意味は無く、逆に感染率が低い地域では無駄な操作になる。要は市中の感染率(ベイズの事前確率)次第なのだ。

その後半年経過し、複数検査や療養の方を段階にする等で検査を抑える必要はなくなった。したり顔でベイズを振りかざす意味もなくなった。

付け加えるなら、日々の新規陽性者数は検査数に影響されるので、単純に一喜一憂するのではなく、陽性率とセットでみるべきだ。何故なら市中の感染率が推定できるからである。(計算方法は別noteへ)


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