見出し画像

#20 契約自動化の鍵

2015年12月16日作成の再掲

少し前の田舎では家に鍵をかけることもなかった。小さな共同体では信頼関係があるし、変な行動をする人はいないからだ。これは相互監視の結果であるがプライバシーは無いも同然で、保守的なルールやボスに従わないと村八分にされてしまうから息苦しくなる。

反面、都市の匿名性は人を自由にし、プライバシーも守られる。このように信頼と自由、プライバシーと匿名性は古くから人間社会の問題である。

これは経済取引でもそのまま当てはまる。

取引の相手はどこの誰で、信用があるのかないのかわからない。そのため様々な仕組みが考案されてきた。法律(商法・会計、各業法、消費者保護法など)、登録制度(登記、印鑑、戸籍・住民票、資格など)、役所の許認可(免許、認可・許可、届出)、税務等の申告、証明書(パスポート、免許証、健康保険証など)、完了証や修了証の発行、格付や審査、決済システム、信用状、貿易保険、手形制度、エスクロー、信用情報システム、中央マスメディアによる監視などである。

こうした情報により匿名性の中でも相互監視はほぼ可能な社会となったのである。

ところが、インターネット社会はこのバランスを崩してしまった。ハンドルネームなどで多人格やなりすまし、完全匿名が可能となってしまい、アイデンティティ(自己同一性)を保持できないのである。たとえばeコマースの場合、売り手側も買い手側も詐欺できてしまう。お店の評価なども店主やライバルが書き込むかもしれない。そこで唯一で生涯変わらぬアイデンティティの確立が問題となる。

これまでの仕組みは政府主導で行われてきたので、これを拡充することが考えられる。最近のマイナンバー制度はこれである(夫婦別姓の問題も同じかもしれない)。

しかし、サイバー空間は国境を飛び越えてしまうし、政府監視への抵抗はますます強くなる。民間企業によるSSL認証があるが、これは有期限であり費用が高すぎる。

そこでブテリンという人は分散化されたP2Pシステムを活用したIdentityCorpというアイデアを考えた。

彼はすべての契約のプロトコルが動作する共通のプラットフォームを提供する「イーサリアム」も考案している。これらは企業活動や取引の契約などを自動化するDAC(分権化した企業)の動きである。

これはコンピューターが自動判断できる“ドライな契約”からすでに始まっている。金融取引や不動産の定型化した取引はすぐにでも適用可能である。たとえば売買の直接契約や鍵や家と連動した賃貸(シェア)はもちろん、家電や車などのIoTも“契約”で信用を付与して取引できるのである。

またアローズという人はブロック・チェーン技術を用いて文書を「存在証明」するサービスを始めた。公開鍵暗号とハッシュ関数を用いた電子署名を使えば「なりすまし、改ざん、否認」「二重使用」を解決できる。これを連続させたものがブロック・チェーンである。

DACが進めばドライな契約、モジュール化された業務はコンピューターに奪われる。つまりホワイトカラーも二極分化する。前述の各種制度に関わっている仕事もほぼ不要となる(当分の間、抵抗する事が仕事になる)。

そして人間しかできないサービス業(現金決済が多い)も供給増で低賃金になるだろう。将来、人工知能(AI)の発達で仕事が失われるかという議論があるが、すでに技術は存在しDACサービスは始まっている。

AIやロボットも待つ事なく、ついに匿名という自由と取引の信用の両立、あるいは性悪説さえ許容する社会へのドアに到達したのだという人もいる。しかも、政府も不要であり介入もできない。昔の田舎にノスタルジーを感じる必要もない。

なお、ブロック・チェーンを使って管理者の誰もいないP2Pで取引しているのがビット・コインに他ならない。またブリテンは19歳、アローズは23歳であるのも驚きだ。

※ 追記 5年半前のエッセイ。昨日の「#19  非代替性トークン(NFT)の可能性と留意点」に関係しますね。マイナンバーってまだ普及していない(笑)。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?