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#6 企業経営における知的財産について~模倣がキー~

Intellectual property in corporate management

2021/1/22

無形資産としての知識財の「非競合性(コピー可能性、模倣)」および経営における「選択の場面(オプション性)」に注目してまとめてみた。

1. 知の公共性

知識という財は公共財に似ている。公共財は非競合性と非排除性という性質を持つ。非競合性は誰かが消費しても他の人の消費が減らないことである。非排除性は対価を払わない人を排除できないことである。こうした性質によっていくつかの問題が起きる。“混雑(congestion)”、“重複”、“共有地の悲劇“という現象である。たとえば通信トラフィック量の急増が起きることがある。またフリーライダーが登場し、市場取引はできなくなる。よって、道路や公園は無料となり、電波に課金ができない民間放送は広告モデルが考案された。

2.知の模倣と課金

知識はコピーや模倣が簡単である。無料の義務教育や社会訓練は模倣によって成り立つ。武道や芸事は真似から始まり家元制度等で課金する。ソフトウェア、ネットサービス、コンテンツ等は営業的には限界費用がゼロに近くなる利点があるが、ライバルやユーザーにコピーや真似されてしまう危険も大きい。これを防ぐには、技術的にコピー不可とする、特許等の権利保護で時間を稼ぐ、営業秘密にする等の手段が考えられる。また法制度的に権利保護することで創造・創作にインセンティブを付与している。

多くのネットサービスは少額課金が難しいため、広告モデルやフリーミアム、サブスクリプション等のビジネスモデルが考案されている。私はこうした手段自体もイノベーションであると考える。何故ならこれは人的制度ではなく財の性質から起因された問題に対処しようとするものであり、もしこうしたモデルやアイデアがなければ商品サービスが提供されていないのは確かであるからである。

3.知的財産保護の二面性

知識やイノベーションはスピルオーバーによって漏出してしまうが、一方で、それが社会全体としては知の共有として付加価値や経済成長に寄与する。(著作権にしてもインスパイヤー、翻案、パロディとして他のクリエータに影響を与え文化芸術で社会を豊かにする。)これは経済学的には正の外部性を持つ。先進国の持続成長は技術進歩の内生化であり、アイデアは先達の功績を利用しつつ後世につながっている。特許制度は前者に対して独占的排他性を与え過小投資を防ぐ。また後者に公開制度によって知識の拡散を促し、二重投資を防ぐ。このように知的財産制度はミクロとしてインセンティブを付与する一方で、マクロの社会的な効率性も目指す二面性を持ち合わせている。こちらは人為的な制度であるが、その二面性とは法的に衡量を考えたものと考えることができる。

4.企業経営と知的財産

現代の企業経営において無形資産の重要度が高まっている。デジタル化によって限界費用がゼロに近づくと規模についての収穫逓増をもたらすからである。その中でも法的専有が認められた知的財産権が中心となる。それは独占排他性から参入障壁となり超過利潤を生むからである。自社で使わなくともライセンス収入やフランチャイズ収入を得ることもできる。また消費者の混同やニセモノを防止できる。
研究開発型の製造業では特許権・実用新案権、消費財企業のブランドは商標権、工業デザインは意匠権、エンターテーメント産業や情報産業では著作権や肖像権に関係する。企業価値を上昇させるためには知的価値を創造し、その競争優位性を維持する必要がある。そして知的財産権を管理し、また客観的価値を知らなければならない。新規投資、訴訟、M&A、人材登用等の場面においても関連するからである。また特許等を持つことによる社会的な信頼度アップ、事前防衛手段による収益安定の効果もある。

5.ライバルを真似する

一方で、知的財産に関してライバルや他の産業を積極的に真似することもある。製造業であればリバースエンジニアリングは当然であり、飲食宿泊サービス等でライバル企業を研究しない企業はない。90年代後半の金融ビッグバンによって株式公開企業は会計情報に付随した情報公開が迫られるようになった。加えて、特許制度を使って真似することも可能である。1999年にインターネットによる特許出願情報の公開が始まった。これにより容易にアクセス可能となったが、海外へも簡単にスピルオーバーすることになった。(ちょうど日本の家電産業の衰退の時期と重なる。)よって知的財産を公開せずに秘匿することも真剣に考えなければならなくなった。このように知的財産に関する選択が企業経営にとって重要になってきたと考える。

「知的財産のオプション場面」につづく・・・

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