SS2 『佐々木豊の風景【昭和四十一年・冬】』
昭和四十一年冬。
国鉄・京浜東北線鶴見駅の西口を出て、昨年建設された5階建て大型デパートのつるみCOMINを背に坂を登っていく。高級住宅街である東寺尾を抜け、明治情緒色濃い茅葺の古民家を望む馬場花木園を横目に進むと、夏は納涼祭で盆踊りや花火大会が行われ町の象徴ともなっていた曹洞宗の總持寺が左手に見える。そこを右折しまた暫く坂を上った所に、”室藤鉄工鶴見寮”と呼ばれる社宅の集落がある。佐々木豊と両親はその一角に住んでいた。豊が生まれる直前からなので、もう10年以上住んでいること