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僕とヒロカズと別荘お泊まり会②

遂に迎えた夕食。

男女それぞれが、作った料理を一階の和室に持ち寄る。
女子組は流石の一言で、盛り付けの彩りも完璧な料理を完成させていた。
そして我らが男子組。シンノスケくんやワタルくん達が作った素晴らしい出来のおかずに、
僕が担当した”なぜか真っ黒い人参しりしり”と、
ヒロカズが炊いた”何か米以外の物が混ざってる、うっすら黄色いごはん”を献上した。
僕の”なぜか真っ黒い人参しりしり”は女子組から真っ先に猛バッシングを浴び、
「食べる現代アートだ」と言い張っても聞き入れてもらえず、
作るのみならず食べるのまで担当になってしまった。

そして問題の”何か米以外の物が混ざってる、うっすら黄色いごはん”だ。
全員分のお皿によそって、女子組が作ったカレーをかけ各人の前に回される。
女子の誰かが、勘違いして「やば!サフランライス?」と感嘆の声をあげていたが、カレーだけにかける言葉が見つからなかった。

(ちなみに補完しておくと、お酒は用意していなかった。というか計画段階で一言たりとも酒の字は出なかった。
流石進学校。アイラブ那覇国。新崎速イェイ!)

バヤリースで乾杯して、皆一斉にカレーを食べ始める。

各所から一旦、「うん!」「美味しい!」の声が上がる。

・・・そして、長い沈黙。

1年を共に過ごした仲の良いメンバーでの、お泊まり会という楽しいイベントで、沈黙。
スプーンが皿に当たる金属音だけが響く広い和室。
お米硬めかな?と思ったけどそれ以外特に気になることが無かったので、うめーと言いながら食べてた僕も、
女子達が一様に黙って下を向き、ケータイを触り出すという異変に気づいた。
すると同時に、怒涛のようにバイブが鳴り出す僕とナカゾノのケータイ。
何事かと確認すると、目の前の女子達からの
「この米炊いたの誰?硬いし何か酸っぱい臭いするんだけど。」
「何か米にちょくちょく混入してるけど何?」
という苦情メールの嵐だった。
ナカゾノのケータイにも同様のメールがうねりを上げていたようで、
米を炊いたであろうシャイ男子組に、直接追及するには気まずい関係性だった女子達の猛襲が、
まだ話の通じる僕らのケータイを襲ったのだった。

そして遂に、女子全員が米を食べ切れず残すという緊急事態に直面した。

皆が皆、揃いも揃って、"ごはん担当"の目の前で米を残すのは余りにも気が悪いので、
暫くの水面下での作戦会議の末、
「ダイエットしてるから炭水化物ちょっと控えてるんだよね」と
「何だよ、捨てるの勿体ないから俺食べるよ」の一本槍で、
僕とナカゾノ二人で女子の残したごはんを殆ど平らげる事に成功した。
この時ほど、先天的に嗅覚が死んでいる体質に感謝したことは無い。
ナカゾノはその後長時間トイレにこもっていた。おそらくホテルのような広いトイレを隅々まで堪能していたのだろう。

ちなみにヒロカズ本人は、ワタルくんやシンノスケくんに『な?あのぐらいの混ぜ方でも全然普通に炊けてるだろ?俺の言うこと聞いとけば間違い無いんだから(笑)』と機嫌良く自慢していたので、恐らく僕とナカゾノの暗躍には全く気付いていない。

第一次夕食大戦もある程度の和平的な解決を見せた頃、空も完全に夜の帳を下ろしたので、
ビーチを見下ろす外のデッキで花火大会をすることにした。このお泊まり会のメインイベントだ。
最初は華やかな手持ち花火を、
盛り上がってきたらネズミ花火などの暴れる系を、
クライマックスで吹き上げ花火を楽しみ、
最後は輪になって線香花火をした。
線香花火の直前、女子の誰かが
「願い事を唱えながら線香花火に火をつけて、火の玉がポトッて落ちずに綺麗にそのまま消えたら、
その願い事が叶うんだって!」という瑞々しさ迸り発言をしたのをきっかけに、
皆願い事をしながら火をつけることになった。
「志望校合格しますように!」
「今年中に彼氏が出来ますように!」
「ペットの病気が治りますように。」
各々の願い事を唱えながら火を付ける。
火の玉の行方に皆が刮目し、一喜一憂する。

僕はふと「今この瞬間がもしかして、”何十年先になって思い出す、青春のかけがえのない瞬間”かも」と思った。
1年間毎日顔を合わせていたとはいえ、いつも明るい日中に過ごしていた仲間達と、
今こうして、夜の真っ暗な海が目の前に広がる別荘のデッキで、満天の星空の元、線香花火の小さく儚い灯りを囲んでいる。
制服じゃない、普段の格好で肩を寄せ合って座り、笑い合っている。
学校で出会ったはずの、生まれも育った環境もバラバラの皆とこうして、学校を飛び越えて、遠く知らない地で一緒に過ごしているという事実が、急に凄く尊いものに思えて、涙が溢れそうになってしまった。
何て美しい一瞬だろう、と思った。
目の潤みがバレないよう皆から目を逸らすと、その先で
ヒロカズがワタルくんの持っている線香花火を揺らし、無理やり火の玉を落下させ、
「あ〜!お前の火の玉落ちた!残念、志望校受かりませーん!(笑)」とケラケラ笑っていた。

僕は「あ、やっぱこれ”青春のかけがえのない瞬間”なんかじゃないわ」と思い直した。


その後は、この日誕生日だったトモコ姉さんにナカゾノが告白ドッキリをしかけて、
ネタバラシで皆出てきてプレゼント渡すといういかにも高校生らしいことをしたり、
テレビから速報で流れた、ここ数日逃げ続けてたのりピーがようやく逮捕されたというニュースに沸いたりしながら夜は更けていく。


予定してたプログラムを全て消化した丁度0時頃、「じゃあ遊んでもよし、寝てもよし、自由にしよう!」というアイちゃんの号令で、
「疲れた!よし、寝る!キングベッド占領や!」と意気込んだ僕は一目散に寝室に向かったが、
それを行きのバス同様、またもトモコ姉さんに見つかってしまい、
「は?大空もう寝るば?だったら下で寝てさ」という赤紙同然の出兵命令を受け、
地下1階で夜な夜な開催されるといわれる幻の殺戮トーナメント”天下一女子歌唱武道会”(別名:女子カラオケ大会)会場に
特別顧問(別名:保護者枠)として招聘されることになってしまった。
僕は戦地に赴く道すがら、ヒロカズはじめ他の男子が1階リビングの大画面で仲良くWii Fitをやり始めるのを目撃したので、
「皆で下行こうよ。ゲームさっきやったじゃん。てか頼むから来て」と誘ったが、ヒロカズに
『え〜(笑)女子と遊んでも何も楽しくないやっし(笑)男だけでゲームしてた方が楽しいさ(笑)』
と一閃、切り捨てられてしまった。
トモコ姉さんを見ると、しっかり聞いてないフリをしていた。

女子衆がノリノリでカラオケしてるのを横目に僕は、ソファに寝っ転がりながら、
ガラステーブルに広げられた大量のお菓子を片っ端から食べていた。
当時から殆ど流行歌を聴いていなかった僕にとって、最新のヒットチャートばかり歌われるその場は退屈の極みで、
チサト(仮名)が歌ったミスチルの「抱きしめたい(‘92発売)」以外全く知らず(おそらくこの曲は当時彼女が付き合っていた、音楽好きの彼氏の影響)
気付いたらちゃんと寝てしまっていた。

朝6時頃目が覚めると、僕が2つある内一つのソファを占領してしまっていたせいで、
結構な人数が堅い床に雑魚寝していた。滅茶苦茶申し訳無い気持ちになったが、
「そもそもお前らがここに俺を呼んだんだからな。ざまあみろ」という開き直りの気持ちと、
10名が雑魚寝している様が、砂浜に打ち上げられた文字通り死んだ魚達みたいで面白かったのもあり、罪悪感は一瞬で消えた。

改めて広い部屋を見渡すと、他の男子組はやはりいなかった。
そのタイミングでチカ(仮名)も目を覚ましたので、「男子どこに寝てるんだろうね」など話しながら
トイレの為に一緒に1階に向かったのだが、階段を上るにつれ、薄々予感していたことが現実になっていった。
ヒロカズがテレビに向かって片足のヨガ立ちをし、凄いテンションで一人大盛り上がりしているのが見えてきたのだ。
ドラクエやFFといった大作RPGならまだしも、Wii Fitを徹夜でやる人を僕は見たことが無かった(2024年現在も無い)上に、
その6時間ぶっ続けでやってるとは思えない余りのテンションに面食らい、
思わず階段を上る足が止まってしまった。
チカは、『ドン引き 顔』で画像検索したら一番上に出てくるようなドン引きした顔でヒロカズを眺めていた。
ちなみに僕が見た限りでは、ヒロカズだけがテンションが夜中から高止まりしており、
残りのメンバーはげっそりしながら何とか付き合ってるというような状態だった。
ワタルくんだけは横のソファでミイラのように一人静かに寝ていた。(おそらく寝る際に、ヒロカズと面倒な問答が繰り返されたであろうことは想像に難くない。)

朝9時、帰りのバス。
女子衆も聞けば3時過ぎまでカラオケ大会をしていたらしく、行きの車内が嘘のように、半数以上がバスに乗って間もなくうとうと眠りだした。
しかし、同じように疲労困憊で寝入ったヒロカズが、
チェーンソーを起動させたような爆裂イビキを間もなくかき始めたため、
眠っていたメンバーはもれなく叩き起こされ、その後那覇に戻る3時間一睡も出来ず過ごすことと相成った。


こうして彼大活躍のお泊まり会は幕を閉じる。


2年後。

高校卒業後、僕は県内、ヒロカズは群馬の大学にそれぞれ進学した最初の夏休み。
『沖縄に帰ってきたから、ちょっと遊ぼうよ』と彼から連絡が入った。
「OK、免許も取ったからドライブ行こう」という文言に、彼が大好きだったチャットモンチーの絵文字を添えて返信した。
すると『わかった!じゃあ明日の朝8時に高校隣の楽市で集合ね。でもごめんだけど、お昼から予定あるから
11時ぐらいまでしか遊べなけどいいかな。あと、何でチャットモンチー?』という、これまたかなり味のある返事が来た。

翌日、時間通り8時からドライブがスタート。とりあえず朝食の店を探しながら北へ向かうも、そんな早朝から空いてる所など中々無い。
「朝早すぎて食べれそうな店ファミレスとかしか空いてないねぇ。どうする?」と聞くと彼は
『家で朝ごはん食べてきたよ!』と言った。迂闊だった。しっかり話し合っておくべきだった。
「朝早い集合だからどこかで朝食を一緒に食べるのだろう」と思い込み、勝手に朝食を抜いてきていた僕の落ち度だ。
同時に、11時までしか遊べないということは必然的にランチも食べないということなので、イコール僕の午前中ぶっ通し腹ペコ運転が確定した。
北谷のデポアイランドもアメリカンビレッジも早朝すぎてまだ開店しておらず、車はとにかくスムーズに北上を続けた。
嘉手納を通り過ぎ読谷を通り過ぎ、
「よし、ようやく10時だし色々開店する時間だな!」という頃には、そろそろ折り返して南下しないと
11時に間に合わないという所まで北上してしまっていたので、結局どこにも立ち寄る事なくUターンし、大急ぎで浦添の彼の家まで送り届けた。

帰りに一人で立ち寄ったメインプレイスの和風亭で、朝昼食兼の天そばを食べながらふと
「何だったんだこの3時間は」と思ったりもしたが、
「まあ仕方ないか、ヒロカズだしな。」の一言で許してしまえる彼のキャラに少し、羨ましさも覚えた。


おわり

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