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小説

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物語です。
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#デート

『オーケストラを観に行こう』3

4/
 日曜日当日。

 二人は最寄りの駅前を集合場所に決めていた。
 特に深い理由があったわけではなかったが、どうせデートなら、その方が雰囲気が出ると考えた言海が提案したことだった。
 理由は口にしなかった言海の提案にも大した反論もなく清景は頷いたため、そう決まったのだが、前日の晩になって言海は提案したことを少し後悔した。
 デートだと意識すると、妙に緊張したからだ。
 ソワソワして珍しくあまり

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『オーケストラを観に行こう』2

2/
 「アイス食べたい」
 何の脈絡もなく唐突にその言葉が呟かれた。
 言海は机の上の参考書に固定されていた視線を言葉を発した人物の方に動かした。
 ふと口から出た言葉だったのだろう、呟いた本人――宇野耕輔は相変わらず机の上に視点を合わせたままであった。
 
この日も言海は宇野耕輔と共に風島清景の家を訪れていた。
 いつも通り、3人で勉強する為だ。
 
 言海が真緒からチケットを譲り受けてから数

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『オーケストラを観に行こう』1

 8月中旬。
 晴天に恵まれた街はヒートアイランド現象も相まって連日30度を超える気温を記録し続けている。
 この日曜日も当然の如く30度を超える炎天下で、歩いているだけでも汗が噴き出るほどだった。
 隣を歩く風島清景も堪えた様子はないものの、頻りに額を拭う動作をしている。
 私はというと、こっそりと能力を使ってその辺りを解決しているので、問題はない。
 普段ならば日常生活ではFP能力を基本的には

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