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小説

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2024年3月の記事一覧

砂上の楼閣 3

 窓から飛び出したトゥーリアの身体を重力はすぐに掴まえた。
 落下が始まる。
 地上七階からの自由落下は、人間一人を破壊するには十二分だろう。
 何もしなければ。
 トゥーリアは静かに、そしてごく自然にFPを瞬時に練り上げた。
 生み出した効果はすぐに現れる。
 落下を始めているトゥーリアのコートの裾を風が揺らした。
 初めはフワリと、そしてやがて突風に変わり、トゥーリアの落下を受け止め始める。

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砂上の楼閣 2

 これだけあちらこちらで戦闘が起こっていれば、身を隠しながら動き回るのも一苦労だ。
 少し油断した結果が足元に転がしている男だ。
 相手が『オーブ』側であれば、今回の様に倒せばいいのだが、『協会』側であればそうはいかない。
 なので、どちらにも見つからないのが一番だった。
 その上で、『オーブ』側の者でも、倒せば面倒なことがあった。
 トゥーリアは通信機器と一緒に抜き取っていたゴルフボール大の球体

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砂上の楼閣 1

 砂混じりの空風が、既にその機能を完全に失っている壊れた窓から吹き込む。
 廃墟と化している、かつては大きな集合住宅だった建物の一室だった。
 七メートル四方程度の広さの部屋の端と端、そこで男女が対峙していた。
 脇に抱えた小銃の銃口を持ち上げているのがやっとなのだろう、砂色の迷彩服で全身を覆う男は蛇に睨まれたように固まり、小さく震えていた。
 対する女は、この状況には些か似つかわしくない裾の長め

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学食へ行こう 8(完)

 「まぁ、なんかあったら言えよ」
 「そうします」
 部長はこういうところは素直に頼りになるので、こちらも素直に返事する。
 「お前にはどうせ解決できないんだから」
 「はい……」
 素直に頼りに……。
 「早く言えよ」
 「はい……」
 素直に……。
 「お前が面倒ごとに巻き込まれて、最終的に困るの私だからな」
 「はい……」
 「こら!水仙ちゃん、そんなこと言ったらダメですよ!」
 伊吹先輩が

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