マガジンのカバー画像

小説

258
物語です。
運営しているクリエイター

2023年1月の記事一覧

時に雨は降る 12

 直後、突如として訪れた静寂は、まるで空間ごと時間が止まってしまったかのようだった。
 先程までの激しい攻防が嘘だったかのように、全てが停止しているようだった。
 轟音を響かせていたはずの機体の動きは不自然に停止している。
 辺りに響くのはしとしとと降り注ぐ秋夜の雨の音と、そして直前までの動きとはうって変わってゆっくりと歩く錬樹の足音だけ。
 俄然有利であったはずの女は機体の中で動けずにいた。
 

もっとみる

時に雨は降る 11

 「希雨(きさめ)」
 女の攻撃に対して、錬樹は焦るわけでもなく口角を上げたまま短く名前を呼んだ。
 錬樹の呼びかけに控えていた龍が素早く動き、女の操る機械の腕を迎撃。
 『グッ……!?』
 弾かれるようにしてよろけた機体を何とか制御する。
 女の対応を尻目に錬樹は身軽に着地。
 直後、すぐに駆け出す。
 追撃するためだ。
 女も錬樹の行動は把握している。
 機体を立て直し、再び拳を構える。
 が

もっとみる

時に雨は降る 10

 変化は目に見えて劇的だった。
 錬樹が行使した王力の奔流は瞬時に周囲の水分を巻き込み、錬樹の周囲で回転を始める。
 渦巻く水流はいとも容易くドローンによる無数の銃撃を弾き返し、錬樹を守る。
 水流に隠れていくように次第に錬樹の姿が捉えられなくなる。
 それでも、女の操るスーツに取り付けられた無数の計器類は未だその中心に時雨錬樹が居ることを示している。
 ならば、ここで怖気づく必要などない。
 女

もっとみる

時に雨は降る 9

 女の操る機械のスーツは、その見た目とは裏腹に素早く、機敏に動いた。
 握った右の拳を引くと、人の体でそうするのと同じように王力を練り上げ、拡張された体ごと肉体強化をする。
 その様子を見た錬樹は一瞬驚いたように目を見開いたが、すぐに表情が戻る。
 それだけ。
 王力を今以上引き出す素振りも、能力を行使する素振りも見せず、空中で静かに薄く強化してある右の拳を引いた。
 錬樹のその様子に驚いたのは女

もっとみる