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小説

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2022年12月の記事一覧

時に雨は降る 8

 錬樹は異音の正体を未だ目視で認識していたわけではなかった。
 それでも駆動音さえ掴めれば、目標の位置の推測など簡単なものだ。
 距離を詰めた錬樹の手にはいつの間にか短く光る刀剣が握られていた。
 脇差や刺身包丁を連想させるような、鋭く細いそれが錬樹の愛刀。
 錬樹は距離を詰めた勢いを殺さぬまま剣を振り上げた。
 バチッという小さな音を立てた後、真っ二つになった目標は静かに雨に濡れる地面に落ちた。

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時に雨は降る 7

 夕方の時間、それも休日であるが雨のせいか人通りはそれほど多くない。
 そんな中を錬樹は走る。
 女の姿は見えなくなっていたが索敵範囲にはしっかりと収めているので追跡は容易。
 それに少ないとはいえ人通りのあるこの場で攻撃を仕掛けてくる、ということはあまり考えられない。
 常識で考えれば、後手に回るリスクは大きく先に一手を加える手段を考える場面であるが、時雨錬樹はそんなことはしない。
 たとえ後手

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時に雨は降る 6

 「……相変わらず雨かぁ」
 買い物を終えてスーパーの外に出ても相変わらず雨は降り続いていた。
 桜とは既に別れていた。
 なんだかんだ言いつつも足早に帰って行った桜は、やはり世話焼きなんだろう。
 その背中を見送りながら錬樹は苦労してるんだろうなぁとぼんやりと思った。
 
 空を分厚い雲が覆っているせいか、いつにも増して周囲は暗かった。
 スマートフォンの時計を見てみても、今はまだもう少し明るく

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 時に雨は降る 5

 「あら? 時雨君?」
 不意に声を掛けられたのは丁度生鮮食品売り場を見ていた時だった。
女性の声。
 振り返った。
 「あぁ、八重咲先輩。こんばんは」
 「こんばんは、時雨君」
 そこに居たのは八重咲桜(やえざき さくら)だった。
 錬樹にとっては一年の上の先輩で、恭弥の同級生だ。
 彼女は前年度の生徒会メンバーの一人で、引継ぎの際にいくらかお世話になった。
 「こんなところで奇遇ですねぇ」
 

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