時に雨は降る 7
夕方の時間、それも休日であるが雨のせいか人通りはそれほど多くない。
そんな中を錬樹は走る。
女の姿は見えなくなっていたが索敵範囲にはしっかりと収めているので追跡は容易。
それに少ないとはいえ人通りのあるこの場で攻撃を仕掛けてくる、ということはあまり考えられない。
常識で考えれば、後手に回るリスクは大きく先に一手を加える手段を考える場面であるが、時雨錬樹はそんなことはしない。
たとえ後手からでもいくらでも状況をひっくり返せる自信と実力があるからだ。
だから、今は追跡に専念していた。
「……傘拾ってから追えばよかったな」
降りしきる雨が前髪を伝い、視界の邪魔をする。
時々、それらを振り払いながら錬樹は特に深く考えることもなく走る。
周囲はすっかり暗くなっていた。
分厚い雲のせいでわからなかったが日もすっかり落ちたのだろう。
道路の脇に立つ街灯も次第に灯り始めていた。
女は適度につかず離れずの距離を保っているようだった。
誘い込まれているということは明白。
おそらく女にとって都合のいい場所に向かっているのだろう。
それでも錬樹は追跡を止めない。
女を追って辿り着いたのは学校からほど近い河川敷と繋がるように作られている大きなスポーツ公園であった。
「なるほど」
この近辺であれば戦闘するには持ってこいの場所だ。
雨が降っていることもあり人通りは元々ほとんど無いのだから人払いに割く王力も最小限で済む。
やる気満々ということだろう。
尤も、その辺の条件は錬樹の側にも当てはまるわけだ。
錬樹はニヤリと口角を上げ、気軽な動作で公園の敷地に足を踏み入れた。
誘い込みに成功したからだろうが、女は隠密に切り替えたらしく気配を辿ることは難しくなっていた。
果たして、一体どんな罠が仕掛けられているのだろうか。
そんなことを考えながら最初の数歩を歩いた時だった。
「ん」
雨の音に混じって異音が聞こえた。
ブゥンという低い風切り音。
状況が違えば聞き逃すような小さな音だが、それを逃すようなことは無い。
どこから聴こえてくるのか、位置を特定するために耳を澄ませようとしたところで嫌な予感がした。
錬樹は予感に従い、回避行動を取る。
直後に響いたのはプシュという小さな発射音。
直後に着弾。
数瞬前に錬樹の立っていた地面が抉れた。
銃撃程度であれば対応できるが、あの発射音にこの威力。
明らかに釣り合ってない成果はどう考えても能力によって強化されたもの。
そして――
「……やば」
異音は周囲からまんべんなく聞こえてきていた。
つまり、無数の銃口が錬樹を狙っている。
直後、吐き出される弾幕。
ほぼ360度すべての位置から狙われていた。
錬樹はすぐに肉体強化をさらに上げ、回避に回る。
弾幕は、しかし発射口によって数瞬の誤差がある。
その数瞬の隙間を正確に縫うように錬樹は回避を続ける。
銃撃も延々に続くわけではない。
最初に数瞬であった誤差は段々と広がっていく。
未だ通常で考えれば避けようの無い弾幕であったが、肉体強化した錬樹にとってはそう難しくない回避になる。
そうなれば。
錬樹は一瞬の隙を突くように、弾幕の隙間に走り出した。
目標は異音の正体の一つ。
数メートルの距離を一瞬のうちに詰めた。
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