20240307 サンプルG-26⑤


「それで、その紳士は間違いなく"力"と言ったのね。"力"と。」

「はい、確かに力という言葉を使っていました。あまりにも馬鹿げた話なので、その力が一体何なのか呆気にとられましたが、その紳士の目には自分の姿など映っていなく、まるで自分を通して別の何か、別の存在に向かって話しているようでした。」

「別の存在。」

「はい、あくまで主観的にそう感じたということに過ぎないのですが。その紳士はこう続けます。」

「"力と言っても、残念ながらキミが想像するようなシロモノではないんだがね。それは魔法でも錬金術でもない。もちろん女の子のスカートの中を覗けるわけでもないんだよ。ハッハッハッハ。あぁ、ここは笑うところなんだがね"」

「"そんな目で見つめないでくれたまえ。実を言うとだね、本当にお恥ずかしい話なんだが、かく言う私でさえ未だにその力が何であるのか分かっていない有様なんだよ。そんなわけの分からないものを他の誰かから受け継ぎ、そして今キミに受け継がそうとしている。こんな馬鹿げたことがあるだろうか。いや、キミがそう考えるのは至極当然だよ。当の私自身でさえキミと全く同意見なのだからね"」

「"だがね"」

「そう言って、その紳士は真っ直ぐに自分の目を見ると、何かを制止するかのように閉じた二本の指を前に出してこう続けるんです。」





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