20240310 サンプルG-26⑥


「"だがね、最近思うのだよ。と言うか、この力を失う時、つまりキミに受け渡す頃合いになってという意味なんだけれどね"」

「その紳士は下を向いてしばらく黙りこみ、また顔を上げた時にはなんだか急に老けて見えました。」

「"この力は受け継ぐ者によってどうとでも変化させることができるのかもしれない。私は先程キミに見せたように浪費という役割を与えられたのだと今は思っている。でも、それは受け継いだ力によるものなのか、もともと自分の中にあったものなのかはよく分からない。ただ、必ず役割がある。それをどう使うかは本当にキミ次第なのだよ。ある意味、その力は"死"に似ているかもしれない。生あるものに死は平等に訪れる。そんなことは周知の事実だし、今さら議論するつもりはない。でもね、死はもともとキミの中に存在するものなのか、それとも存在などせず、何かあるいは何者かから些細なきっかけで受け継ぐものなのかもしれないということだよ。そう、まるでそこの窓から見える枝先に小鳥がとまるように"」

「死に似ている。」

女は自分に言い聞かすようにつぶやくと、白いレースが揺れる窓を見つめた。


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