20231006 対話 海中編3

その"海らしき空間"はどうやらかなり巧妙に構築されているようだ。とは言え、スキューバダイビングの経験もなければ、海に潜るという経験もさほどある訳ではない。あくまでテレビや映画で見たことのあるという意味合いにおいて、そこは確かに海中と呼べるものだった。

「その通り。よく気づいたね。ここに再現されているものは、全てキミ自身の投影そのものなのさ。イメージが具現化されているという風にも言い換えられるかな。でも本当は少し違っていて、実際はキミ自身を構成するものの記憶といった方が正しいかもしれないね。はっきり言ってしまうと、それはもうキミがキミ自身と思っている意識の遥か向こう側にあるものなんだ。とてつもなく深いところで共有されている本体であって、って、ちょっと聞いているのかい。」

ふと横に目をやると大きな岩が近くにある。上を見上げると太陽の光なのだろうか、ゆらゆらとした半透明の光がその大きな岩の一部分に差し込んでいる。その照らし出された岩肌に触れてみる。ざらざらとしていて地上で触れるそれと感触はほとんど変わらない。右手で触れながらぐるりと回り込んでみる。ちょうど反対側には人の背丈くらいの穴がぽっかりと開いている。雨宿りするにはちょうどいい妙な安心感を覚えた。

「そこは入らない方がいいと思うな。もちろんどうするかはキミの自由だよ。それでもおすすめはしないな。あっ。もう、ほんとにキミってやつは。」



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