20231004 対話 海中編2

これは夢なのだろうか。

試しに手や足を動かしてみる。確かに水を掻くような妙な抵抗感がある。ただ経験上のそれよりも幾分弱い。つまり、実際の水中よりもかなりスムーズに動かせている。いや待てよ。よくよく考えてみると、夢か現実かなんてものは主観的な判断に過ぎないのかもしれない。連続性のあるものを現実として判断した方が色々と都合が良いのだろう。

「どうしたんだい。また難しい顔してさ。当ててあげようか。キミには友達と呼べる人がいないだろう。ちょっと目を離したら、すぐにこう難しい顔をするんだもの。誰も近づきたくないはずだよ。」

頭上にある白い球体は点滅しながら上下左右に細かく飛び回っている。あれ、そういえば普通に呼吸ができている。なぜだろう。意識すると妙に苦しく、

ゴボゴボゴボ…

「あぁ、キミたちはすぐそうやって何の根拠もなく信じ込むからなぁ。ほら、これならどうだい。」

いつもの河川敷へと戻っていた。遠い山並みに向かって景色が流れていく。一定の鼻呼吸には何の支障も感じられない。

「そのまま。共有を断ち切ってごらん。僕を信じて。いくよ。」

また海の中に引き戻された。いや、正確に言うならば"海らしき空間"の中にいる。空気をめいいっぱい吸っても肺が満たされないような感覚があるが、呼吸は何とかできている。あまり考えるのはやめよう。とにかく若干の息苦しさはあるが、即座に溺れ死ぬことはないのだ。

「さてと。これでようやく腰を据えて話せるってものだね。別に場所はどこだってよかったんだけどさ。こういう非日常感がある方がキミにとってもいいかなと思って。喫茶店や地下鉄の中じゃあ雰囲気がでないからね。」



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