20240229 サンプルG-26②


「目を瞑ると、遠くの暗闇からゆっくりとこちらにやってくるんです。いや、本当は向こうがやってくるのではなくて、こちらから向こうに行っているのかもしれません。」

「いずれにせよ、気づけば、いつもその、窓のある部屋にいるんです。日当たりが良いのか室内はとても明るく、映画で見たことのあるような古い英国式の家具が置いてあります。多分、昔見た"高慢と偏見"のワンシーンだと思うんですけど、いや、映画じゃなくて小説だったかもしれません。とにかく、その部屋に来ると、いつもその作品を思い出すんです。」

「ちょうどこんな風にソファに座っていて、木でできたローテーブルには紅茶の入ったティーカップが二つ置いてあります。自分は記者なのか何なのか分かりませんが、どうやら目の前に座っている誰かにいくつか質問して、ノートにメモをとっているんですね。」

「あなたは自分が何者なのかも、なぜこんなことをしているかも分からないのね。」

「そうです。ここがどこなのかもよく分かりません。"高慢と偏見"で見たというのもただの例えであって、こんな部屋に行ったことも見たこともありません。それに自分は記者などではなく、仕事は時計の営業です。」

「最初よりも上手く話せているわ。何も問題ないわよ。そのままゆっくり続けて。」





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