20240302 サンプルG-26③



「それで、その、そうです。いつも決まって自分は同じ質問を彼にしているみたいなんです。あの、すみません、彼というのは目の前に座っている紳士のことです。」

「それで、あなたはその紳士にいつも同じ質問をする。」

「そうです。どのような質問をしているのかはよく分かりません。ただ、目の前の紳士には見覚えがあります。でもそれはただ見覚えがあるというだけであって、特定の誰かというわけではないんです。」

女と男がいる部屋の窓から風が少し入り、白いレースのカーテンが揺れる。

「自分が質問をすると、その紳士は歯並びの良い真っ白い歯を見せつけるかのように大きな声で笑うんです。その笑い方が何と言うか、少し奇妙でして、少し芝居がかっているというか、いや、決して演技なんかではないんです。例えるなら、そうですね、テープを巻き戻して再生するかのように、いつもいつも全く同じ笑い方をするんです。」

「すみません、分かりにくくて。あの、お茶を頂いてもいいですか。」

そう言って、男はローテーブルのティーカップを二本の指で掴むと、手の震えが気になるのか、慌てて両手で添えるようにして口へ運んだ。





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