20231013 対話 海中編5

「まぁ総じてキミと呼んでるんだけどね。」

客席に向かって一礼をするように一呼吸おく。

「そんな難しい顔しないでよ。簡単に言えば、彼らはキミの代替品ってとこかな。キミが消えても(実際は消えないんだけどね。あくまで便宜的表現だよ。)、彼らが随時補完してくれるってわけなんだ。何だかモノみたいに扱うようで本当に申し訳ないんだけど。いや、でも実際の話、キミとモノに一体どれだけの違いがあるというのだろう。」

壇上の指揮者の如く一気に話し続けたかと思うと、突然の休符が打たれる。そして、ピアニッシモで続ける。

「キミだって彼らを乗り捨てて今があるんだ。むしろ感謝して欲しいくらいなのにな。まったく。」

真っ暗の穴の中で白い球体が点滅するものだから眩しい。手でその光を遮るようにして外へ出た。遥か下ではやはり、あの巨大なクジラのようなものがその役割をまっとうせんと、大きな口を開けたり閉じたりしている。

また指揮棒を手に取り、まるでマーラーの交響曲を奏でるかのようにまくしたてる。

「そう絶望しないでくれよ。あれ、絶望のかけらもないね。やっぱりキミはちょっと変だよ。まぁいいや。とにかくキミたちが勝手にあれこれと意味づけをして共有するもんだから、各々がまるで別個の存在のように思っているけど、実際は"キミ"でしかないんだよ。あぁ、こういうことを正直に言うと、こちらがまるで悪者にでもなったような気分だよ。まったく。今までも延々と繰り返してきたことだし、これからも延々と繰り返していくことなのさ。ほら、またすぐそうやって意味を求める。あぁこれはキミの悪い癖だね。」

そしてトニックコードに着地する。

「ただの作業なのさ。」




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