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#1 健康習慣のスタートライン

健康のプライオリティー

 地球で暮らす私たちにとって2020年は意識と行動の変革を迫られる年でした。人生や毎日の暮らしにおいて、ものごとの優先順位が揺さぶられ、《健康のプライオリティー/優先度》が高くなった人は多いようです。自宅で食事をする機会が増え、「毎日の食事をより健康的に」と意識されたかたもいるでしょう。
 この連載では新しい健康習慣、とくに野菜ジュースを飲むような健康食習慣をスタートしたときに直面しやすい《壁》をピックアップします。皆さんが同じような壁に直面したとき、その先へ歩みを進めるヒントにしていただけたら幸いです。

豊かな食文化だから迷う

 田舎の庭先で、野鳥たちが果実や虫に飛びつく姿をぼんやり眺めることがあります。ジュースを搾った柑橘類の皮やリンゴの芯を木の枝に刺すと、喜んで残り汁を吸いに来るのはヒヨドリ。モズは姿を見せず、現れるのは決まって雨上がりに地中から這い出てきた虫をとらえる時です。同じ鳥類でも生態によってエサは明確に異なり、自分のエサになるもの以外に関心を持たない《迷わぬ姿》に驚かされます。
 私たち人間にはバラエティー豊かな食文化があります。初めて食べる異国の味に喜びを感じるなど食の豊かさが楽しみをもたらしてくれますが、それが迷いの原因になることもあります。とくに、健康を意識したときに食への迷いは極まるのではないでしょうか。

9 穀物・豆類・ナッツ類はすべて測り売り オーガニックの植物性食品だけを扱う自然食品スーパーPEOPLE'S COOP、米国サンディエゴ

(写真)穀物・豆類・ナッツ類はすべて測り売り/オーガニックの植物性食品だけを扱う自然食品スーパーPEOPLE'S COOP、米国サンディエゴ。

本当の健康食はどこに?

 世界大で見ると、食事を使って養生をする方法は数え切れないほど存在します。
 前回の連載でお伝えしたゲルソン療法の野菜治療食のほか、玄米菜食、マクロビオティック、薬膳、アーユルヴェーダ、ローフード、ナチュラルハイジーン、糖質制限、断食やファスティング、血液型別食事法、パレオ食、代謝別食事法、抗エストロゲン食、抗炎症食など、考案された時代のニーズや養生目的により、今の私たちにはバラエティーが豊か過ぎるほど多くの選択肢があります。

治療食より難しい健康食

 最初に縁のあった健康食で目的が叶えば幸運です。でも、始めてもメリットが感じられなければ、別の方法を求めてさまよう無限ループに陥りがちです。
 じつは、《健康食》は、ゲルソン食のような《治療食》に比べて自分に適した方法を見つけるのが難しいようです。それは、健康食の目的が明確ではない場合が多いからかもしれません。

健康食に必要なフィット感

 治療食を始める場合、その人には何らかの症状や病状があり、それを示す検査結果があります。この人の目的は症状や病状を改善させることなので明らかです。
 一方、健康食の場合、目的の輪郭はややぼんやりしています。同じ食事法に取り組む人でも各々の目的が多様です。病気予防、健康の質向上、減量、美容、ホルモンバランス、筋肉増強、スタミナアップ、アンチエイジング、妊活など、望みは十人十色です。
 少しイメージしてみてください。ジグソーパズルで2つのピースが合うとき、凸凹の形が互いにフィットします。食事法で目的が叶うときも同じなのです。食事をする人の凹に合った凸の食事法を選ぶか、凹に合うよう食事法を微調整する必要があります。健康食も、その人に合ったオリジナルデザインのものが目的を叶えやすいのです。

治療食後の健康食は?

 私が健康食の難しさに気づいたのは、ゲルソン療法の《治療食》を無事に終えた元患者さんから、「治った後はどのような食事が良いのですか?」と尋ねられたときでした。
 治療食とともにライフスタイル全体の大幅な変更を実施して健康を回復した後、かつて自分の病気を回復へと導くことができなかった前の食事に戻ろうとは思えないわけです。だからといって、ゲルソン療法のような《治療食》を一生続けることも難しい。家族や親しい人たちとの食事、学校や仕事場での食事、家計に合わせた食事などとは両立しないからです。

食事には多様な目的がある

 本来、食事は《命の糧》を得る手段でした。今もそのはずですが、脳の大きな人類は多様な目的の食事を発明しました。消化器の発達に合わせた赤ちゃんの《離乳食》。作物が採れない時期をしのぐ《保存食》。その知恵や歴史を伝承する《伝統食》。信仰やルーツ、思想など《アイデンティティーを表現する食》。味や場を楽しむ《レジャー食》。ストレスややり場のない感情を埋め合わせようとする《代償の食》。そして健康維持や改善を目的とした《健康食》や《治療食》。食の目的はじつに多様です。

4 PBNHカンファレンスのビュッフェ、2018年9月米国サンディエゴ

(写真)PBNHカンファレンスのビュッフェ/2018年9月米国サンディエゴ

食事は目的を明確にして消化する

 健康食習慣をスタートして初めに直面する《壁》は「健康的ではない食事とどう折り合いをつけるか」なのかもしれません。罪悪感に似た感情を持ちながら食べる食事は、消化不良になります。これでは食事をする意味も無くなります。
 「あなたは食べたものでできている」という成句がありますが、実際には「あなたは消化したもので」できています。
 毎回の食事の目的を改めて意識してみると、不要な迷いは消え、気持ちよく食事をいただけるようになります。消化の良い食事で未来の自分を作りましょう。健康的な食習慣はそこから始まります。


■参考書籍
『Dr.マックス・ゲルソンのゲルソン療法 細胞から回復する高カリウム低ナトリウム療法 セオリー編』、氏家京子著、2019年発行

ゲルソン療法に関する日本語HP
ゲルソン・クリニックのHP

このコラムを書いた人
氏家京子(うじいえ・きょうこ)

1972年生まれ。
健康雑誌の編集部に6年勤務。米国系統合医療サービス企業に1年勤務。 フリーランスジャーナリストとして独立後、統合医療や自然療法分野の取材を国内外で継続し、医療消費者への教育活動、統合医療に関する翻訳書籍の出版を行う。
1998年から始めたゲルソン療法の取材経験は日本でもっとも豊富で、米国ゲルソン・インスティテュートから日本アンバサダーに任命される。
ゲルソン療法のワークショップを開催するほか、ゲルソン・クリニックへの入院希望者に通訳として同行する業務も行う。
ゲルソン療法の患者教育を担うゲルソン・エデュケーター育成、ゲルソン療法専門医の育成にも携わる。
2019年6月、『Dr.マックス・ゲルソンのゲルソン療法 細胞から回復する高カリウム低ナトリウム療法 セオリー編』を出版。


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