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ゲルソン・インスティテュート・アンバサダー氏家京子 連載コラム第1回『野菜で治すクリニック』

この記事は2019年12月2日、ヒューロムWEBマガジン naturise「ゲルソン・インスティテュート・アンバサダー氏家京子 連載コラム第1回『野菜で治すクリニック』」に書いた記事を転載しています。


がんの治療も野菜食

今から42年前のこと、世界で唯一といえる、野菜で病気を治療するクリニックが誕生しました。場所はアメリカ合衆国の南に国境を接するメキシコです。心地よい日陰を作る大きな木とオゾンプールを囲む静かな中庭を備えた、合計10部屋のこじんまりした入院病棟では、今日も笑顔を絶やさない医療スタッフが世界中から訪れる患者さんをケアしています。
 ここで治療する病気の種類は様々です。各種アレルギー、関節炎、糖尿病、メタボリックシンドローム、心臓病、腎臓病、肝臓病、線維筋痛症、慢性疲労症候群、骨粗しょう症、潰瘍性大腸炎、クローン病、子宮内膜症など。予防のために入院する健康な人もいます。でも、圧倒的に多いのは、がんの患者さんです。日本からも患者さんが訪れています。
 今の時代、野菜をたくさん食べると健康に良いという話はよく聞きます。でも、《野菜たっぷりの入院食》というレベルを超えて、《野菜食が治療法そのもの》という医療施設は世界でもあまり例がありません。

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自身が最初の患者

このメキシコにあるクリニックは、ドイツ出身のDr.マックス・ゲルソン医師(1881−1959)が多様な病気を治療できるようにと発展させた食事療法を、ゲルソン医師亡き後に受け継いできたため、皆からゲルソン・クリニックと呼ばれています。
 Dr.ゲルソンは、大学の医学部に入った後、原因不明の片頭痛発作に悩みました。特効薬が無く、解決法を探して医学論文を調べていると、古い文献に「食事を変えると患者の片頭痛が和らいだ」という記録を見つけました。そこで、食べものが自分の症状にどう影響するのか、仲間と一緒に研究し始めました。これが後にゲルソン療法と呼ばれる独特な食事療法の誕生につながりました。この時の2年間の食事実験では、塩と脂肪の無い野菜食で頭痛が止まり、健康状態も最適になることがわかりました。

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いろいろな病気が治り始めた

その後、内科と神経科の医師になったDr.ゲルソンの元に片頭痛の患者が来ると、この野菜食を教え、患者たちは治りました。
 ある日、片頭痛が治った患者の一人が、皮膚結核という難病も一緒に治ったと言いました。患者の話に嘘が無いことを確認したDr.ゲルソンは、この野菜食療法が片頭痛の表面的な症状を治すのではなく、複数の病気に共通する深層の何かを変えているのではないかと思うようになりました。
 Dr.ゲルソンは自分の治療の効果がより確かなものになるように、患者の治療と並行して研究を続けました。片頭痛と皮膚結核に続いて、肺結核の治療効果が大規模な治験で確認され、不治の病(当時)を治した彼の名はヨーロッパ中に知れわたるようになりました。

がんと骨折が同時に治った

 その後、アメリカのニューヨークで開業したDr.ゲルソンが熱心に治療をしたのは、末期がんで希望を失った患者たちでした。
 あるとき、43歳の女性患者がDr.ゲルソンに治療を求めて来ました。彼女は14歳で左足大腿部にがんを診断されてからの29年間、同じ場所に再発、感染、移植を繰り返し、最後には弱った骨が折れて金属のプレートを銀のネジで骨に固定する手術を受けました。その傷を覆う筋肉と皮膚がうまく再生されず、膿の分泌と痛みで患者は寝たきりでした。
 ゲルソン療法を始めると、驚くようなことが起こりました。傷口に新しい筋肉と皮膚が再生されただけでなく、折れていた骨がくっつき始め、骨の回復力が金属プレートを固定していたネジを折ってしまったのです。不要になったプレートとネジは手術で取り除かれ、ゲルソン療法を始めて5年後には、痛みも無く歩き、日常生活をふつうに過ごせる健康な女性になっていました。
 このときの経験について、Dr.ゲルソンは次のような言葉を残しています。「この症例は、身体には生まれながらにものすごく大きな治癒力が備わっていることをとてもよく表しています。その大きな治癒力が、骨に固定されていた大きな金属製のネジを破壊しました。(−中略−)治癒力がこの作業をやり遂げるには、新鮮な食べ物に含まれる生きた自然な化学物質を体内環境に最大限に与えて、創造力を持つ肉芽組織が生物学的な潜在力を発揮できるようにしなければなりません。」

治療には高栄養が必要

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 ゲルソン療法の野菜食には、いくつもの特徴があります。その一つは、高栄養食ということです。ケガや病気でダメージを受けた身体を治すには、ふつう以上の高栄養から治療に必要なエネルギーを生み出す必要があるからです。  健康な成人の1日のエネルギー必要量は、2000~2600kcalくらいですが、ゲルソン療法では毎日2600~3200kcalを摂取します。この最大限の栄養を野菜で身体に送り届けるため、ゲルソン療法の野菜食にはさまざまな工夫がなされているのです。

■参考書籍
『Dr.マックス・ゲルソンのゲルソン療法 細胞から回復する高カリウム低ナトリウム療法 セオリー編』、氏家京子著、2019年発行

ゲルソン療法に関する日本語HP
ゲルソン・クリニックのHP

このコラムを書いた人
氏家京子(うじいえ・きょうこ)

1972年生まれ。
健康雑誌の編集部に6年勤務。米国系統合医療サービス企業に1年勤務。 フリーランスジャーナリストとして独立後、統合医療や自然療法分野の取材を国内外で継続し、医療消費者への教育活動、統合医療に関する翻訳書籍の出版を行う。
1998年から始めたゲルソン療法の取材経験は日本でもっとも豊富で、米国ゲルソン・インスティテュートから日本アンバサダーに任命される。
ゲルソン療法のワークショップを開催するほか、ゲルソン・クリニックへの入院希望者に通訳として同行する業務も行う。
ゲルソン療法の患者教育を担うゲルソン・エデュケーター育成、ゲルソン療法専門医の育成にも携わる。
2019年6月、『Dr.マックス・ゲルソンのゲルソン療法 細胞から回復する高カリウム低ナトリウム療法 セオリー編』を出版。


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