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【トライプ考察③】

トライプにまつわる説あれこれ


トライプは犬が死体を見つけるのに重要な香りを放っていることは説明しました。そしてそれが嗜好性に繋がっているのではないかと言うお話もしました。
他にはどのような機能があるのでしょうか?
一般的に唱えられている説は

食物繊維の摂取
酵素の獲得
細菌を取り込むことで免疫力獲得
乳酸菌に代表される善玉菌の摂取
ビタミン・ミネラルの摂取

の5つだと思います。

最初に申し上げておきますが、僕がトライプに期待するのはこの中だとビタミン・ミネラルの摂取だけです。

反芻獣の第一胃とは?


反芻獣(牛や鹿)には4つの胃があります。その中でヒトやイヌと圧倒的に異なる性質を持っているのは主に一胃です。トライプは一胃と二胃のことを指しますが、その臓器の大きさ的に考えて、ほとんどのトライプは第一胃を使っているはずです。
そして一胃の中は細菌農場と言えます。反芻獣はこの一胃の中に大量の草や穀物を水と共にストックして、その草を細菌培養装置とし、細菌の放つ酵素を用い草自体や穀物を消化し、その産物や死体を適宜摂取してあの巨体を保っています。
その細菌の中には当然有害なものから有益なものまで様々な細菌がいて、キツネ等の野生動物はそれらを接種することで免疫を獲得したり、腸内の細菌叢(さいきんそう)を保ったりしているのです。
ここでよくある勘違いですが、経口摂取した細菌類は直接腸まで届くわけではありません。細菌叢に影響があるというのは、決して「摂取した細菌がそのまま腸に定着する」と言う意味ではありません。ただ、摂取したものが腸内環境を左右する、という当たり前のことを言っているに過ぎません。

食物繊維の獲得は可能か

結論は可能です。一胃内の細菌たちが消化している途中の食物繊維を摂取することになります。
ただ、これは普通に綺麗な野菜やカリカリフードに含まれている食物繊維でも十分に摂取可能です。わざわざ細菌まみれの出どころの分からない草をあげるよりはるかに安全でしょう。
「消化途中の草じゃないと嫌!」という方もいますが、ワンちゃんたちは別に消化された草を必要としていません。食物繊維摂取はもちろん様々なメリットがありますが、何も消化途中の牧草を与える必要性は感じません。

酵素の獲得は可能か

これに関しては残念ながらほぼ期待できないでしょう。
そもそも「トライプで酵素を!」と言っている方々はこの質問に正確に答えられますか?

『あなたが摂ろうとしている酵素はなんですか?』

酵素と一口に言ってもその種類はたくさんあります。
トライプ内の環境を考えると、主に期待しているのはセルラーゼに代表される植物繊維分解系の酵素でしょうか?
しかし残念ながら、酵素には活性と言うのがありまして、その酵素は牛の一胃内で一番働くようになっています。牛の一胃のなかのpHは6~7です。ほぼ中性と思ってください。
一方イヌの胃内のpHは1~2の強酸性です。pHが6異なるというのは酸性をつかさどる物質の濃度が1,000,000倍異なると言う事です。
この環境の差がありながら、酵素が正しく機能するでしょうか?

そしてなによりワンちゃんは食物繊維分解酵素を必要としているでしょうか?
こういう観点で僕は酵素の獲得には全く期待していません。

免疫力獲得か可能か

生であげれば可能です。この原理はヒトと同じです。
ざっくばらんに言えば、汚いものに触れれば、一時的に病気になるものの免疫は獲得できます。
さて、ではトライプを生のままあげて細菌をたくさん摂取させれば良いのでしょうか?
答えは完全にNOです。
僕は絶対にトライプを生であげたくないです。
大動物獣医師たちで集まった時このことを話したのですが、その場にいる獣医師十数名は同意見でした。というより「信じられない、、、」と生トライプを与えている現状に絶句していました。
それくらいトライプから細菌を摂取することは危険です。
免疫力は、普通の生活中に色々なものに触れていれば必要十分です。わざわざ猛毒を放つ可能性がある大腸菌やサルモネラ、それも高確率で薬剤耐性を持っている細菌を生きたまま摂取しないでください。

善玉菌摂取は可能か

これも生トライプなら可能です。仮に加熱したとしても善玉菌の死骸は腸内の善玉菌の栄養となります。じゃあ良いじゃん!!!と思いがちですが、そこには上記のように他の細菌も大量に含まれます。
乳酸菌を与えたいのなら普通に経口の整腸剤をあげて下さい。生菌剤と言うのがありまして、与えるとちゃんとウンチの中にも確認できますから、しっかり腸内に届いていると見ていいでしょう。
ただ、最初にも書きましたが、届いたとしても定着するかは別の話です。経口摂取した細菌はまずイヌの胃の強酸にてほぼ全て死にます。その関門をくぐり抜けたとしても腸内に定着するとは限りません。
詳しく知りたい方は糞移植という技術を調べてみて下さい。腸内環境を変えるというのはとても難易度が高いことが分かります。

ビタミン・ミネラルの摂取

最初に述べましたが、栄養学的にトライプに期待できるのはこれです。
皆さん知っての通り、内臓にはビタミン・ミネラルが豊富に含まれます。これに関しては様々な研究がなされており、そういう意味で第一胃という内臓を食う事は野生鳥獣にとって大きな意味がありそうです。
ビタミン・ミネラルを効率良く取るならレバーもオススメできます。それを遺伝的に知っている動物たちは真っ先にレバーに食いつくのかも知れませんね。
ちなみに茹でこぼすと当然ビタミン・ミネラルは溶出します。この辺りをよく考え、加熱方法にも様々な工夫が必要です。

結論

長くなりましたが、トライプの特殊性は

『香りによる嗜好性がやたらと高い内臓』

であると考えます。

その上でそういう形態で与えるのが良いか、皆さんもよく考えて利用してみて下さいね!!!

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