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不時着飛行物体

第3公園の方に星が落ちていった。

昼間だというのにきらきらとした尾をひいて、なんだか明らかに非現実的なかんじだ。

あたりに誰もいないのをたしかめると、ぼくはすぐさま公園へと走った。隕石の第一発見者ともなれば、科学者になりたいという夢に一歩近づけるかもしれない。

第3公園は「中途半端に余ってしまった土地を無理やり公園にしました」というような、狭いのに奥行きがやたらある不思議な形をしている。

そのちょうど真ん中あたりにある砂場に、今まさに不時着したばかりというようにうっすら煙を立てながら、それは刺さっていた。木の影からぼくはそっと観察する。よく見るとプリントされたマークが星の形をしていただけで星や隕石の類ではないらしく、“アルミのような素材でできた筒状の物体”というのがその全貌だった。

「UFOかな」

缶飲料のパッケージのようにも見えるけど。

でもぼくはあれが空から落っこちてくるところを目撃しているのだ、星ではなかったにしても、何かただならぬものであることは間違いないはず。

しばらくじっと息をひそめて様子を見る。今にも宇宙人が出てきそうな気がした。彼らは道に迷って困っているかもしれないし、いきなり攻撃をはじめてくるかもしれない。向こうが動くまで、ぼくの存在は気づかれてはいけない。

でも、しばらく見ていても、その星のついた小さなアルミ製の物体はぴくりとも動かなかった。

はじめの方こそ高鳴っていた胸は次第に落ち着きを取り戻し、それどころか生あくびがぼくの思考の邪魔をしはじめた。

やっぱりあれはただの缶なのか。

ぼくはあきらめてため息をつくと、砂場に背を向け公園の入り口に向かって歩きはじめる、

ふりをして不意打ちを狙いもう一度振り返った。

「わわっ、なんだよ少年、びっくりするじゃないか」

そこには、さっきまでいなかったはずのスーツ姿の男の人が立っていた。

男の人はアルミ製の物体を手に慌てた様子を取り繕うようにそう言った。ぼくはと言えば、驚きのあまり口を開いたまましばらく何も言えなかった。

「こんなところに空き缶を捨てちゃあだめだよね。ぼくが拾っておくから、さ、きみはもう帰りなよ」

細長い形をしたこの公園は、紐でたとえるならその両端にしか入り口がない。ちょうど真ん中らへんにある砂場へは走ったってそうすぐにたどり着けるはずがないのに、わずか一瞬のうちにこの男の人は現れた。

「宇宙人ですか?」

ぼくの口は、考えを整理するよりも早くそう言っていた。

男の人はきょとんとした表情で何度か目をしばたかせると、とつぜん笑い出した。愉快でたまらないといったかんじだった。

失礼なことを言ったかなと少し不安になると、男の人は笑うのをやめて、ぼくの目線の高さまで膝をかがめると

「そうだよ、ぼくは宇宙人だ。このアルミ缶に乗って、遠い宇宙の彼方からたった今この星にたどり着いたんだよ」

と言った。

やっぱりそうだ。少し前まで眠気すら感じていたぼくの頭はまた俄然冴えはじめた。

「それ、宇宙船なんですか」

どう見ても空き缶にしか見えないそれを指差して尋ねる。

「ああ、うまいことできているだろう。この星に元からあるのとちっとも違って見えない」

かあっとほおが熱くなるのがわかる。ぼくは今、ものすごい真実を知ってしまったぞ。ドキドキして、胸がつまって、何も言えなくなる。

男の人はもう一度くしゃっと笑うと、

「なんてね」

と言った。そしてそのまま缶を手に、ぼくと反対方向の出口に向かって歩きはじめた。

呆気にとられて、ぼくは結局その背中が見えなくなるまで何も言えずに立ちすくんでしまった。

なんだったんだ、今のは。

嘘なのか、本当なのか。

あの男の人は、宇宙人なのか、人間なのか。

アルミ缶は、宇宙船なのか、空き缶なのか。

第3公園に、謎とぼくだけが残された。

あれからずいぶん月日がたった今でも、結局あの男の人とアルミ製の物体の正体はわからないままだ。

ただひとつだけ確かなことがあるとすれば、あれ以来ぼくは街に空き缶が置かれているのを見るたびに、中からスーツ姿の男の人が現れないかどうかじっと観察するようになってしまったということだ。


***

UFOはアルミ缶からできていてぼくらどこへも飛べるってのに

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