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くまとシーソー

くまは、公園で見かけたシーソーというものが気になって、夜も眠れないほどでした。

あれに乗れば、きっと空まで届くんじゃないかな。

そしたらぼくの体も空の色に染まって、雨の日はうすはいいろの、晴れの日はコバルトブルーの、「そらくま」になるんだ。

「そらくま」になった自分の姿を、寝床の中でくまは想像ました。窓から見える星の散りばめられた夜の濃紺はそれはそれは素敵で、体がそんなふうに染まったらさぞかしかっこいいだろうと思うとちっとも眠れないのでした。

あくる朝やっぱりシーソーのことが気になっていた寝不足気味のくまは、もう一度公園へ行ってみました。

公園には何人か人間の子どもたちが遊んでいました。そういうときに自分があらわれると、びっくりさせたり泣かせてしまったりすることをくまはよく知っていたので、そっと木の影から誰もいなくなるタイミングを見計らうことにしました。

ほんとうはあの子どもたちに混ざっていっしょに遊べたらどんなにいいでしょう。でも、くま自身も子どもたちの怯える顔を見るのは悲しいので、ぐっと肉球を木のざらざらに押し当てて我慢をするのでした。

やがて子どもたちのうちのふたりが、シーソーで遊びはじめました。

あれはふたりで乗るものなのか。がーん。

くまには友達がいなかったので、あんなふうにはシーソーを使いこなせそうにありませんでした。

「そらくま」になった自分の姿が、頭の中でがらがらと崩れ落ちてゆくようでした。

そのとき、

「なにしてるの」

不意に足元で女の子の声がしました。

そこに誰かがいるとは思っていなかったので、くまはびっくりして悲鳴をあげそうになりましたが、すんでのところでこらえました。

いつからそこにいたのでしょうか。女の子は、くまのいる木を取り囲むように生えている茂みの後ろ側でしゃがんでいました。ときどきそっと茂みから顔を出して、くまと同じように公園の様子を伺っています。

「そっちこそ、なにしてるの」

女の子はくまを見ても怖がる気配がなかったので、おそるおそるくまは尋ねてみました。

「しっ」

女の子はすばやく人差し指を口に当てると、

「かくれんぼ。まあ、みんなわたしが隠れてることなんてすっかり忘れちゃってるけど」

一拍おいてぶっきらぼうにそう答えました。

くまには「かくれんぼ」が何かはわかりませんでしたが、素直にそう答えるとがっかりされてしまうと思ったので、黙っていました。

「それで、そっちはなにしてるの」

女の子はもう一度聞きました。

「ぼくはね、あれに乗ろうと思ってやってきたんだ。でも、たったいま、ひとりじゃ乗れないことを知って、帰ろうと思ったところ」

女の子は意外そうな顔でくまを見上げると、なにがおかしいのかくすっと笑い

「じゃわたしがいっしょに乗ったげる」

と言いました。

「ほんとに?いいの?」

「いいよ、でもみんないなくなるまでちょっと待っててね」

それから夕方まで、くまと女の子はそれぞれ木と茂みの影で公園の様子を眺めながら過ごしました。

その間、くまの気持ちは「早くシーソーに乗りたい」と、「今がつづくならそれはそれでいい」の間を、行ったり来たりしていました。

自分を怖がらない人間の子どもと話ができたことが、とても嬉しかったのです。

やがて夕方のチャイムがなって公園で遊んでいた子どもたちは帰っていきました。

夕焼けはとても鮮やかに公園を染めていました。「そらくま」になるなら、今ほど絶好な頃合いはないとくまは思いました。

「シーソーに乗っても、空の色は体にはつかないよ」

その話をすると、女の子はあっけらかんとそう言いました。

「えーそうなのー」

またもやがーん。

「でも、せっかくだからさ、ちょっと遊んでいこう」

でも、そう言ってくれる人がいるから、くまはさっきほど悲しくはありませんでした。

女の子がシーソーのいちばん後ろの席に座り、反対側のいちばん前にくまが座りました。

それでもまだ全然くまの方が重たかったのですが、少し腰を浮かせたりとバランスを取るうちに、ぎこちないリズムでシーソーは動きはじめました。

その間、ふたりともなにもしゃべりませんでした。それでもときどき目が合うと、眩しそうに「にっ」と笑って目を逸らす表情だけで、くまには十分でした。

シーソーは、少し上がってもすぐに降りてきて、これではたしかに空までは届きそうにありません。

でも、「そらくま」にはなれなかったかわりに友達ができました。

そしてそれは、「そらくま」になることよりもずっとずっと、くまには幸せなことなのでした。

夕焼けは、ゆらゆら揺れるふたりの影を、色濃く長く染め上げていました。


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シーソーを飛び込み台に青空へ落ちてくという競技があって

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