星の子どもたち
星の子どもたちは、外で遊ぶときはたいていいくつかの惑星をまたにかけて遊びます。
彼らの住んでいる星はだいたいがとても小さいので、星の中だけで遊ぶというのはなかなか難しいことなのです。
それにひとたび自分の星から大気圏を超えれば、重力からも解放される。これほど楽しくて、これほど自由な遊び方はないと彼らは思っています。
星の子どもたちのお母さんにとっては、そのことは逆に心配の種でもありました。
「宇宙はとても広いんだから、あんまり遠くへ行かないでね」
果ての見えないくらい空間で、星の大きさもまちまち。目標になるものも少ないので遠近感なんてそう把握できるはずもなく、お母さんがいくら口をすっぱくして忠告をしても、子どもたちはいつもうんと遠くまで旅をしてしまうのでした。
それでも宇宙のみなしごになる前に帰ってこられるのは、子どもたちのお母さんが自分たちの星で待ってくれているから。
自分を待ってくれている人がいると、不思議なことに、どれだけ遠くへ行っても、迷子になっても、最後はちゃんと戻ってこられるのです。
「ただいまーっ」
惑星という惑星を遊び場にしている子どもたちは、からだ中を星屑まみれにして帰ってきます。ポケットや靴の中にも、ジャリジャリになった星のかけらがいっぱい。その星屑の形や色や大きさで、お母さんたちはだいたいどのあたりで遊んできたのかがわかるくらいです。
「もう、こんなによごして。洗うのたいへんなんだから」
そんなふうに口では言いながらも、払い落としたときに洗濯カゴに散らばるきらきらを眺めて、子どもたちの冒険を想像するのは、楽しみのひとつでもあるのでした。
ところがその日は見たことのない星屑がポケットに入っていました。
茶色くてさわり心地はふかふかで、軽く指に力を入れるとほろろと崩れてしまう。それは、ゴツゴツしててカラフルで鮮やかな光を放つほかの星屑とは何もかもが違っていました。
「今日はどこへ行ってきたの」
「えー、んー、なんか遠いところ」
冒険が終わってしまえば、子どもたちの興味はもはや次の冒険へと移ってしまいます。最初は要領を得ない調子で答えていた星の子どもでしたが、次第にいろいろと思い出したように、
「地球って名前だった気がする」
「遠くから見たら青いの」
「でも、降りてみたらあんまり青くなくて、その茶色い星屑が地面にいっぱい散らばってた」
「公園ってところで遊んだんだよ」
とこまぎれにいろいろなことを教えてくれました。
「へえ、地球……」
星のお母さんはうっとりした様子でそう呟くと、少ししめったその星屑を、崩さないようにそっとつまんで空にかざしました。
「こんなに綺麗な星屑、はじめて見たわ」
「うん、綺麗。地球のひとそれのこと、土って言ってた」
「素敵な惑星が、まだまだ宇宙にはたくさんあるのね」
「うん」
しばらくそうやって眺めたあと、お母さんはそっと自分の宝箱にその土のかけらをしまいました。そしてさっと日常に戻った顔をすると、
「さ、洗濯しちゃうから早くそのきらきらまみれの服を脱いでね」
と、オーロラ色に輝く鉱石の散りばめられた子どもの洋服を指さしました。
***
ポケットは星のかけらでいっぱいで洗濯機の中まわるきらきら
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