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【読書感想文】カラマーゾフの兄弟の冒険

誠に汝らに告ぐ、一粒の麦、地に落ちて死なずば、唯一つにて在なん、もし死なば、多くの果みを結ぶべし。
【ヨハネ伝第十二章第二十四節】

聖書を引用したエピグラムからカラマーゾフの兄弟は始まります。そして作者の言葉という序文に続きます。堅苦しそうな導入部分に感じました。

総計2000ページ近くあるこの小説を読む事は、自分にとって長く退屈な作業になるかも知れないという不安がふと頭をよぎりました。
しかし読んでみるとその難解さに逆に見事にハマってしまい、一度通読しただけでは理解できなくて、結局暇を見つけて2、3回この小説を読み直しました。

そして、自分がたどり着いた結論とは…
この小説ってもしかしたらドラゴンクエストなの⁈

って世代を感じますね…(汗)

最初の序文の後の第一部第一編の家族を紹介する章は、RPGの設定資料集だと思えば後に続くストーリーが理解しやすくなります。

「お父さんを倒すクエスト」なんです。

結局、何だかんだあったけど父を息子達が倒して世界(ロシア)を救うお話なんですね。

長男ドミートリイは父フョードルとグルーシェンカと言う女性を巡り争い、お金が必要になったので父フョードルから盗もうと父の寝室に忍び込もうとします。でも途中で使用人グリゴリイに見つかったので未遂に終わるのですが、それがきっかけで逮捕されてしまいカチェリーナが、「父を殺す」と書いたドミートリイの手紙を提出したのがきっかけで冤罪となりシベリア流刑懲役20年を言い渡されてしまいます。

但し、息子達は直接手を下さずに、「神も不死もなければ全ては許される」という次男イワンの無神論に強く影響を受けたスメルジャコフというフョードルの血を引いた私生児が手を下すのですが…やがてイワンも自分の本当の気持ちに気づき狂気に苛まれて悪魔の幻覚を見ます。

修道院で修道士をしていた心優しい3男アリョーシャは他の兄達や関係する人に信頼されて色んな用事(クエスト)を頼まれます。その用事(クエスト)を繰り返しながら実はその用事を頼んだ人の心に寄り添い、魂を救っているんです。その事によってアリョーシャも人間として成長していきます。

父フョードルを倒す為、兄弟達は自分では気付かないけどそれぞれの役割を果たします。

そして、ゾシマ長老が亡くなった後、その死体の激しい腐臭のため、還俗したアリョーシャも他の人々と同じ様に神に絶望してしまいます。

その後、修道院に戻りバイシーン神父の「ガラリヤのカナ」の朗読を聞いた後にアリョーシャは覚醒します。


 何のために大地を抱きしめたのか、彼にはわからなかったし、なぜこんなに抑えきれぬほど大地に、大地全体に接吻したくなったのか、自分でも理解できなかったが、彼は泣きながら、嗚咽しながら、涙をふり注ぎながら、大地に接吻し、大地を愛することを、永遠に愛することを狂ったように誓いつづけた。『汝らの喜びの涙を大地にふり注ぎ、汝のその涙を愛せよ……』心の中でこんな言葉がひびいた。

それは、父が死んで、母なる大地に抱きしめるというメタファーです。

資本主義や科学主義が発達してきて人々がギリシャ正教の奇跡を信じられなくなり、ロシアの土着性のベースになっている素朴な信仰が脅かされていました。だから人々の心の中には倫理や道徳を信じる心が揺らぎ、物質世界しか信じられない虚無が広がっていました。

そんな当時ロシアの社会を、アリョーシャはロシアの大地の加護を得て、愛の力で救いに行く事を決意します。

神の存在を否定する資本主義や科学主義に対して、友愛の心で貧しい人々に分け隔てなく接する人間になり、ロシアという国を愛して救う事ができる本当の「勇者」もしくは「天使」にアリョーシャは覚醒したのです。

3回読了した時には、スッカリ忘れていたエピグラムの意味がここでやっと理解できました。

ドラクエ風に書いてみると、

父フョードルはロシアの大地のエネルギーを奪って成金の地主(ドラゴン)に成長します。その子供達3兄弟がフョードルを倒した事により、母なるロシアの大地(国)に愛の力でより多くの恵みを与える「勇者アリョーシャ」が生まれました。

「カラマーゾフの兄弟」は長くて難解な読書クエストでしたが、僕もこの「カマラーゾフの兄弟」と言う作品を通して小説に対する読解力が多少なりともレベルアップしたと思いたいです。

最後にハルキニストではないですけど村上春樹先生の推薦している小説3冊は大変面白いので、是非皆さんも読んでみて下さい。

 #読書感想文 #カラマーゾフの兄弟 #スキしてみて #ロシア文学 #文学 #rpg



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