中小企業360万社が現場の強みを伸ばすAIを作るには
ヒューマノーム研究所の瀬々です。
今日は日々のコンサルテーションで感じていることをベースに、「中小企業の強みをAIで伸ばすことはできるのか」についてお話したいと思います。
様々なツールへのAI導入が進んでいます。多くは各社共通の非競争領域における業務に対するサポートツールに採用されています。では、日本やアジアの経済を支える中小企業の現場へのAI導入は進んでいるのでしょうか?
経済産業省が実施した調査によると、日本国内の中小企業360万社のうち、2020年時点でAIを理解し、かつ導入ニーズのある中小企業は全体の6割、そのうちAIを導入済みの企業は全体のわずか3%にとどまります。同調査では、AIに関する専門知識を持つ人材がIT企業に偏在している点も指摘されていますが、問題はそれだけではありません。
360万社には360万通りのAIが必要です
多くの市販AIは、特定の問題を解く用途として作られています。例として画像検知で広く使われる Microsoft COCO を取りあげます。COCOを利用して作成したモデルに写真を入力すると、そこに写る物体名称を出力してくれます。その答えは「人」「車」「犬」「猫」など80種類に限定されるものの、汎用的に利用できます。
では、ペットショップの業務効率化に向けて、猫の種名を判別するAIを構築したいとします。この利用目的に、先のCOCOのモデルは使えるでしょうか? 答えはNoです。COCOのモデルは、猫自体は教えていますが猫の種名は教えていないため、「猫」は判別してくれても猫の種名は判別してくれないのです。
町工場などの中小企業にAIを導入しようとする場合も、同様のことが起こります。検査基準、顧客層、業種、地域性、商品性質などなど、考慮すべきポイントは千差万別です。中小企業が成長するためのAIは、どこかの企業が提供してくれる汎用的なモデルではなく、その会社に特化したAIです。
360万社のAI導入に向けたハードル
上記の通り、企業へAIを導入することを考えた場合、業態に特化したAIを準備する必要がありますが、特に対象が中小企業の場合、大きなハードルが2つ存在します。
第一の問題は、中小企業1社だけでは、AI構築に必要とする十分なデータが集まらない可能性がある点です。
画像を使ったAI構築に関する相談を受ける際は、必ず手持ちの画像データ数を伺うのですが、「50枚くらいかな」というような答えが返ってくることが多いです。
先に上げたCOCOモデルでは約33万枚、ImageNetというAI訓練用データでは100万枚の画像データが訓練に使われています。現代のAIはデータの量を増やすことで精度を上げています。先の例のような少ないデータ数では精度が確保できない可能性が高いでしょう。
第二の問題は費用対効果と時間対効果です。
近年、データサイエンティストやAIエンジニアの人材不足が問題視されており、AI関連の人件費は他の業種に比べて高騰しています。これが大きく影響し、AIシステムの開発費用は決して安いとは言えません。
また、AI構築においては「データを取ってはAIを構築し評価する」という繰り返し作業が欠かせません。さらに、その会社専用のAIや周辺のソフトウエアを1から構築するとなると、相応の時間もかかります。
経済産業省の調査によると、中小企業の8割がAI導入にかけられる初期費用の負担額は最大50万円と回答しています。AI開発に大企業同様の予算を投入するのは現実的ではない、ということを前提として考える必要があります。加えて、長期間の開発を伴う開発が、中小企業の長所である「機動力の高さ」を奪う可能性も否定できません。
大企業と同じ感覚でAI開発を外注した結果、費用対効果も時間対効果も見合わず終わった、という事態はできれば避けたいところです。
それでは、なぜノーコードAI構築ツールが上記の問題を解決できるのでしょうか。答えは、データとプログラミングの両方の問題が改善できることにあります。
「自分ごと」になると良質なデータが集まる
ノーコードAI構築ツールの長所のひとつとして、自社データをすぐに開発へ回せる点があげられます。先に述べたように、現在のAI構築には何十万枚ものデータが利用されています。しかし、以下にあげる3点が実現できれば、必ずしも大規模なデータを集めなくても、実用的な精度のAIが構築可能となります。
1. 正しいデータを集めること
何十万ものデータを集めないと汎用的なAIが作れない背景に、データに含まれるノイズの存在があります。データセット内に正しくない答えや、答えに関係のないデータが入っている状況です。
犬猫を区別するようなAIを構築するために利用された画像は、必ずしも犬猫を区別するために撮られた写真ではなく、さまざまなシチュエーションで撮られた写真から犬猫が写っているものを集めたに過ぎません。
しかし、例えば中小企業のように解決したい問題が明確な場合、限定的な環境下でデータを集めるため、ノイズの少ないデータが得られます。ノイズの少ないデータであれば、数が少なくとも良いAIが構築できます。
2. 適切なモデルを利用すること
AIを構成する要素のうち、犬猫を判断する頭脳部分のことを「モデル」と言います(詳しくはこちら)。
数十万枚の情報から正解を判定する際に最適化されたモデルと、100枚の情報から正解を判定する際に適したモデルは異なります。100枚の情報解析に100万枚用のモデルを使うのは相応しくなく、いわばショベルカーで鉛筆一本を掴むような状態になりがちです。状況に合わせた適切なモデルを選択し、利用する必要があります。
3. PoCを高速に回すこと
AI構築にはPoC(概念実証)と呼ばれる開発の前段階における小規模な検証が欠かせません。自社専用、つまりこれまでにないAIを生み出すために重要な行程であり、実現可能性が見えるまでトライアンドエラーの連続です。
データが足りなければ、追加データを集める必要があります。また、集めたデータに何らかの間違いを含むこともよくあります。AI構築を業者へ丸投げしている場合、このPoCの効率が悪くなり、プロジェクトが頓挫することも少なくありません。
これら3つの共通点は「AI開発を他者に丸投げしないこと」です。子育て同様、AIを育てる方針を考え、よい教材(データ)を準備し、物事の善し悪しを丁寧に教え、育てます。ノーコードAI構築ツールは、自社開発を可能とすることでAI自身の「自分ごと」度合いが高まるので、中小企業であってもAI導入による業務改善が可能です。
ツールを通して、最先端のAI解析手法の知見を活用する
ノーコードAI構築ツールの長所のもうひとつに、解析専業の社員が不要になる点があげられます。
多くの中小企業は、社員ごとの業務分担に縛られることなく、お互いにサポートをしながら全員野球をしています。AI専業の方がいればベストですが、先述の通り人件費が高騰している今、雇用は現実的とは言えないでしょう。
加えて、AIツールや解析手法は日進月歩で発展しています。「新しいツール(手法)が出てきたから試そう」と動けるのは、最新AI情報を理解できる専業社員が雇用できる企業に限られます。
オンラインで提供されるノーコードAI構築ツールは、日々の研究開発で培われた必要なツールとノウハウが定期的に追加実装されています。先端研究の結果が活用できる環境が自動的に保たれます。
小さな組織にこそ、ノーコードAI構築ツールを
このように、中小企業が自社の強みを伸ばそうとAI導入を決意した時に直面する「データの質」と「コストパフォーマンス」に関する懸念事項は、ノーコードAI構築ツールを使った開発で解消できます。
なお、ノーコードAI構築ツールは、利用を通じてデータ解析の流れをOJTで学ぶ、というような社員教育目的にも向いています。先日の記事でも触れましたが、効果的なDXを進めるためには、社員全員がDX時に行うべき行動と効果をイメージできている必要があります。
経営者も、現場担当者も、事務担当者も、一通りのデータ解析を手を動かして取り組んでみることが、DXの理解へつながる一番の近道です。十数年、AI・データサイエンス教育を実施していますが、座学だけでは、DXのイメージを共有することはかなり厳しい、という現実があるからです。
ノーコードAI構築ツールは、プログラミングの学習時間が取れない方や数式が苦手な方も、マウスクリックだけで利用できます。一度AIを作ってみて「こう変えたい」というモチベーションが生まれてきたら、そこからプログラミングを学ぶのもよいかと思います。
当社はノーコードツール(画像・動画にはHumanome Eyes ・表(エクセル)データには Humanome CatData)を使った初心者向け学習テキストを無償提供しています。AI教育における初手として、ぜひともご利用下さい。
■ 画像・動画データを使ったAI構築を学びたい
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