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本人の側に立った理解とは(後編)

“逆「モーゼの十戒」仮説”

 続いて、そうやってできた谷間(グレーゾーン)に “常識(学校/社会にいるのが当然)” という水が流れ込み、大きな川になります。こうなると、もはや本人が自宅(中心の生活)から学校/社会に戻ることは困難です。長距離を泳げない方なら、大きな川の向こう岸に泳いでいくことがどれほどの恐怖か想像できるでしょう。
 
 そして、本人の体は自宅中心に存在していますが、心は体を離れて自宅と学校/社会との間に流れる大きな川を浮いているような心理状態になります。
 すなわち、本人は自分が不登校/ひきこもり状態になった現実を受け入れられない反面、学校/社会復帰をめざして努力する(川の向こう岸に泳いでいく)エネルギーもなくなっているため「進むも地獄退くも地獄」という葛藤にさいなまれているのです。
 
 たとえて言えば「本人の心は自宅と学校/社会との間にある」ということです。
 
 ところが「学校/社会視点」の方々は「自宅と学校/社会はセットだからとっとと戻るべき」と、軽くお考えになっているようです。
 前述した「大河のようなグレーゾーン」のイメージが持てないのでしょう。私は、これが不登校・ひきこもり理解を難しくしている要因のひとつだと感じています。

学校/社会復帰は選択肢のひとつに

 第二に、そうなった本人にとって学校/社会復帰は必然の進路ではなくなっている、ということです。
 
 前述のように、ご家族や相談・支援の関係者の方そして一般の方の多くは「早く学校/社会復帰するべき」「生き方はそのあと考えればいい」といった “復帰ありき” の人生観をお持ちです。
 あるひきこもり家族会に招かれて臨時アドバイザーをつとめたとき、参加していた親御さんが「就労したら稼いだお金でやりたいことができるのに」と不思議がっていらしたことを思い出します。
 
 しかし、本人の多くは前述のような学校/社会復帰の困難さに直面して「学校/社会復帰」を「生き方」のひとつと考えるようになり、その末に「学校/社会復帰でない生き方」が選択肢に入ってくるようです。
 不登校状態の子なら「フリースクールに移る」「高認を受けて大学から復帰する」「中学卒業を機に通信制高校へ」などですし、ひきこもり状態の人なら「週3日だけ働く」「障害年金を受給して当事者活動する」など、既成の制度や常識の枠組みを外して生き方を考えるのです。
 
 そうして「学校/社会に戻る」という単一の目標に抵抗を感じ「自分に合ったペースとプロセスで自分に合った生き方を見つけたい」という欲求が、無意識のうちに盛り上がっているのではないかと想像します。
 
 今回お伝えしたのは、当事者視点に立った理解のほんの一端ですし、異論のある本人もいるでしょうが、お読みくださった方が不登校/ひきこもり状態へのこうした理解にもとづく対応のあり方を、設立20周年記念イベントでご一緒にお考えいただければ幸甚です。

初出:メールマガジン『ごかいの部屋~不登校・ひきこもりから社会へ~』第253号(2021年9月24日)

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※この文章を書いた1週間後のおととし10月1日(金)夜、設立20周年の日として、渡辺篤氏(元ひきこもりの現代美術家)や石井正宏氏(ひきこもり支援で著名な「パノラマ」理事長)など親しい方を招いたトークライブを、翌2日(土)午後に「私の講演→居場所リレー中継(ワラタネスクエアなど3か所)→ひきこもり当事者活動家3名の鼎談」というプログラムで構成したイベントを、それぞれオンラインで開催し、あらためて「当事者視点」という原点と20年かけて積み重ねてきたものを再確認しました。これにつきましては、来月報告文を転載する予定です。

※先月のここでお知らせした、神奈川県の不登校・ひきこもり等関係団体合同祭り「フリ・フリ・フェスタ」(フリフェス)がいよいよ明日に迫りました。私のヒューマン・スタジオは「湘南ユースファクトリー」と「ひき桜」の両団体とともに「ユースタ桜」という3団体合同チームで団体参加し、販売ブース(模擬店)と出し物(ひきこもりトークライブ&元ひきこもりミュージシャン哲生ライブ)を行います。会場には「フリースペースたまりば」をはじめ多くの関係団体がブースを並べ出し物を行います。ご関心の方は下記私の公式ブログ記事をご覧のうえ、ぜひご来場ください。

※また、来たる30日(土)、私は横浜市内で不登校講演を行います。ご関心の方は下記ヒューマン・スタジオの公式ブログ記事をご覧ください。

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