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企業変革を実現するパーパス経営とリスキリング―匠(たくみ)から、仕組み(しくみ)の時代へ。HRテクノロジーとの向き合い方―

スキルの再習得と一般的に定義されるリスキリング。DX時代を迎え、その重要性に着目する企業が増えている。また、人的資本経営やパーパス経営の観点からみてもリスキリングは重要な人事施策の1つと言える。ただ、リスキリングは本質を見誤れば、単なる研修やイーラーニングの実施に留まり、失敗に終わってしまう。

そこで今回は、一橋大学ビジネススクール 国際企業戦略専攻 客員教授 名和 高司氏と、株式会社HRBrain EX事業本部 本部長 吉田 達揮氏が、リスキリングの重要性と人事が果たすべき役割などについて語り合った。

本インタビューの全文は、下記URLからダウンロード可能です。
企業変革を実現するパーパス経営とリスキリング―匠(たくみ)から、仕組み(しくみ)の時代へ。HRテクノロジーとの向き合い方―


プロフィール

名和 高司氏
一橋大学ビジネススクール 国際企業戦略専攻 客員教授
東京大学法学部、ハーバード・ビジネス・スクール卒業(ベーカースカラー授与)。三菱商事を経て、マッキンゼーで約20年間勤務。自動車・製造業プラクティスのアジア地区ヘッド、デジタル分野の日本支社ヘッドなどを歴任。2010年より現職。デンソー(~2019年まで)、ファーストリテイリング、味の素、 SOMPOホールディングス(いずれも現在も)などの社外取締役、朝日新聞社社外監査役、ボストン・コンサルティング・グループ(~2016年まで)、アクセンチュア、インターブランド(いずれも現在も)などのシニアアドバイザーを兼任。『パーパス経営』、『経営変革大全』、『全社変革の教科書』。『CSV経営戦略』、『稲盛と永守』、『シュンペーター』など著書多数。

吉田 達揮
株式会社HRBrain 執行役員 EX事業本部 本部長
新卒で東証プライム 総合人材サービス企業に入社。2020年HRBrainに入社。人事制度コンサルティング部門の立ち上げから大手企業向けのクラウド営業に従事。また社内タレントマネジメントのユニットの立ち上げと運営を担当。以降、事業企画にてゼネラルマネージャーとして全社戦略の策定・推進。現在は、国内初の従業員エクスペリエンスクラウド「EX Intelligence」を提供しているEX事業本部の本部長として従事。2022年4月に執行役員へ就任。

重要なのは「パーパスの自分事化」

吉田:現在、国内企業においてリスキリングへの注目度がかなり高まっています。名和先生から見た国内企業のリスキリングの状況はいかがでしょうか。

名和氏:味の素の例をお話したいと思います。味の素では、経営のため、社員のためにリスキリングに取り組んでいます。基本的には、企業変革をしたい、社員変革をしたいという想いが根本にあります。そうしないと、自分たちの想いを遂げられないばかりか、競争にも負けてしまう。そのため、まずはバリューを変え、人を変え、顧客を変え、資産を変えるという流れで企業変革をしています。

ここまでやらないと、なぜリスキリングをやっているのか、それをやって何になるのかに紐づきません。世の中によくありがちな再教育になってしまいます。それでは、結果的に社員もあまり気が乗らないでしょうし、なぜリスキリングをやるのかという話になります。世の中でやっているからリスキリングをやるみたいなレベルでお茶を濁してはいけません。今一度本質に立ち返り、リスキリングがどう位置付けられるかを考えることがとても大切です。

吉田:一方、海外企業のリスキリングの事例はいかがでしょうか。国内企業との共通点や相違点はありますでしょうか。

名和氏:海外企業との共通点として、一つはパーパス起点です。自分たちが何をやりたいのかという問いから始まっています。もう一つは、実践段階でトップダウンとボトムアップが両輪で回っていることです。

相違点は、まず、第一に国内企業が主観主義であるのに対し、海外企業は客観主義であることです。国内企業は自分の言葉・定義・志にこだわりますが、海外企業は割と当たり前のことをパーパスとして掲げます。それから、今、無形資産が非常に重視されていますが、国内企業は「匠(たくみ)」を基軸とするのに対して、海外企業は「仕組み(しくみ)」に落とすことを最も重要としています。

吉田:国内企業におけるリスキリングの課題についても考えてみたいと思います。私が思う一番の課題は、パーパス起点ではなくジョブ起点であり、ジョブを定義してから、スキルを可視化する順番になってしまっていることです。定義したスキルが3年後にはなくなってしまったり、意味のないものになったりすることに、多くの企業が課題に感じているのではないでしょうか。

名和氏:その通りだと思います。まずは、パーパスの自分事化が不十分なのです。そもそも自分たちのやりたいことが何かという、パーパスが定義されていないのに、スキルを一生懸命並べても、意味のないスキルが多く出てきてしまいます。それから、業務の断捨離、資産の新陳代謝も不十分です。それができていない中で、業務のスキルを割り出していくことは多くの無駄を生みます。

もう一点、人材をどう育てていくのかという全体像が不明確です。個人のキャリアパスを束ねた時に、どのように人材を育成していくのか。それがない中で個別最適に走ってしまうので、ちぐはぐとなっているだけでなく、本当は必要ない内容がジョブ・ディスクリプションに記載されてしまっています。

企業と従業員がともに成長する仕組みをどう作るか

吉田:リスキリングしていく中で、基本的なデータを多くの企業様が管理できていないところに課題を感じています。部署の異動履歴であったり、資格の情報であったり、スキル・評価結果だったり、システムを活用しながらまずはこうしたデータを集めていく、一元管理していくことはリスキリングの一歩目として非常に効果的だと思っています。

名和氏:私は現在から未来への時間軸をすごく気にしています。そこを測定しないといけません。例えば、どういうキャリアをその人が歩みたいのか、歩ませたいのかというキャリアパスの時間軸。それから、その中で自分たちがどのようなケイパビリティを作りたいのか、またはどこから調達したいのか。このようなMake(自前化)なのかBuy(外部化)なのかというロードマップの時間軸も考えたほうがいいでしょう。

さらには、実際にリスキリングした時に、ビフォーアフターでどういう成果が出て、どのような変化量があって、それがどのような創造性や生産性に結びついたのかといった、結果までをしっかりと測定しないといけません。リスキリングのためのリスキリングになっていないかを整備したうえで、時間軸の構想と測定が国内企業には必要です。

吉田:従業員のリスキリングに報いるための目標設定や人事評価の仕組みの重要性については、どのようにお考えですか。

名和氏:リスキリングを自分事化する時に注目していただきたいのは、「OKR」です。「達成目標(Objective)」とその達成を測定する「主要な成果(Key Results)」を設定するというものですが、これは花王さんが最近始めて、とても成果があがっています。OKRをしっかり入れる、変化量をしっかり測定するなど、この企業にいる間に描けるキャリアをイメージできる仕組みが重要です。このようなキャリアイメージをしっかり描けることが従業員が企業にいる理由です。

時間軸で人間はいくらでもスキルやケイパビリティを変えられますし、深まるし、上がっていきます。そこに全体の絵がなかったり、イメージできなかったりするとその企業に本当に魂を入れ込む気にならないと思います。企業とともに成長するというイメージをどう作るか大事であり、そのためのリスキリングというのは、その場その場で自分がスキルやケイパビリティを実装するためのツールと言えます。「何のために」というマップや目的が大事なのではないでしょうか。

企業の役割は、成長のプラットフォームを作ること

吉田:続いて、リスキリングに取り組むうえで経営・人事に求められる役割についてお伺いしたいと思います。

名和氏:企業がやれることは、成長のプラットフォームを作ることであり、社員に学習能力を身につけさせることです。その企業で色々なことに挑戦し、学習をしていって、周りの人に仕組みとして、しっかり学びを提供できるくらいのスキルを持った人が学習する人と言えるでしょう。もっと言えば、学習する人は脱・学習がないとそこで止まってしまいます。学習して脱・学習し、もう一回学習し直すのが、本来の人間的な組織のあり方だと思っています。そういう組織にチャレンジしたい人が来るのです。そういう組織を作るのが人事部なのです。リスキリングは、そのためのツールではないでしょうか。

吉田:従業員がリスキリングに対して前向きになる仕組みをどのように構築していくかという点では、今までのすべての人事システムが管理者主導で考えているところが課題だと思っています。

名和氏:企業自体が従業員ひとりひとりにどう活躍してもらいたいのかをしっかりと描く必要があります。それが、企業のパーパスを社員に落とし込むことだと思います。企業のパーパスと個人のパーパスを二つの輪で描いてもらった時に、全く重なっていないのは、凄く不幸な状況です。重なりが100%の人も違和感があり、重なる部分が3~7割ぐらいが良いと私は考えています。その重なっているところをしっかりと深めると共に、まだ寄り添っていない部分を自分たちの想いに合わせようとするのは健全な活動です。あまり妥協せず、あまり諦めずに企業との折り合いの付け方を工夫しながら、お互いに進化するプロセスを作れる企業が伸びていると言えます。

吉田:今後、リスキリングを推進するなかで、HRテクノロジーとどう向き合っていけば良いでしょうか。

名和氏:HRテクノロジーは、色々なものが次から次へと出てきます。これをまず使わない手はありません。ただ大事なのは、一体何のためにHRテクノロジーを使っているのか、まずは目的を明確にするという目的指向の部分。それから、結果が出ているのか、差分はどこにあるのかをしっかり自覚することも重要です。

吉田:色々なツールが導入しやすくなってきており、どうしてもHRテクノロジーが魔法のツールと感じてしまいがちです。目的と何の成果、何の課題を解決するために使うのかが非常に大事だと思っています。

HRテクノロジーの向き合い方が上手くいっているお客様の共通点としては、人事だけのツールにとどめていないことが一番大きな要素だと思っています。

なぜ人事に設計力、編集力、創造力のリスキリングが必要なのか

名和氏:人事は漢字で「ひとごと」と書きますが、自分事化しないといけません。自分で本当に今の企業や組織を成長させていくうえで必要なスキルを身につける。そういうところから始めないといけないですし、その覚悟が必要です。それから、人事が決別しなくてはいけないのが、一律の仕組みを入れたがることです。多様な従業員がいることを今一度理解し、それぞれに合った働き方や制度を考えなければなりません。

また、設計力や編集力についても、人事に求められるスキルだと思います。それから、人事の創造力も必要です。その先にどういった無形資産である人材を作りたいのか、本質的な人の力とは何かということをしっかりと問える人たちが必要です。人間として進化する力を身につけさせるためにリスキリングするのですが、そこからもう一度自分で考え、自分で殻を破る努力をするという、一連の進化する力を与えるのが人事であると思っています。

吉田:名和先生がおっしゃった通りに企業が実行できるように我々も支援していかなければならないと改めて感じました。弊社としても、サービスの提供を通して、多くの企業のリスキリング施策に対してお力添えができればと考えております。名和先生、本日は貴重なお話をありがとうございました。

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