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コラム11 自力で椎間板ヘルニアを克服した外科医が教える、ガチの腰痛対策!

外科医というのは立ち仕事です。
(一部のあまりに長時間手術する脳外科医や、耳鼻科医などは座ります。また、最近はやりのロボット手術は座って操作です)
そして、患者さんの手術野を見下ろしながら手術を何時間も続けます。
飲まず食わず。
トイレにも行かず。

そんな中で、多くの体を壊した外科医を僕は見てきました。
コルセットを巻いて手術したり、首にカラーをつけて手術をしたり。
そんなことになるので、僕も多くの先輩方から「手術中の姿勢には注意しろよ!」と教えを受けてきました。

しかし、歳をとればとるほど、体はきつくなってきます。
久しぶりに長時間の手術をしたら、体中ギシギシ、腰はズキズキ…なんてことはざらです。
そう!外科医の人生は体の不調との戦いなんです!

ああ…、今回のコラムめっちゃジジくさい…。

僕も若いころは元気でした。
大学院生をしていた頃は、顕微鏡下でネズミさんの小腸の移植手術を1人きりでやっていて(これは座ってですが)、1日に2回の移植手術をしていました。小腸を摘出する手術を加えて連続で4回の顕微鏡手術ですね。
実際の臨床でも小児の肝移植に何度も携わり、1日がかりの手術も多かったのですが、若いと回復も早いので、そんなに体は痛くなりませんでした。
しかし…。
35を超えたくらいからですかね。特に腰痛がひどくなり始めました。

もともとぎっくり腰にはなりやすくて注意していました。
運動もある程度していて、10キロマラソンなどはよく参加していましたし、体重も重くなりすぎないように管理して…。
割と真面目に頑張ってはいたんです。
でも、いろいろなストレスとかも重なって、ついに椎間板ヘルニアを発症してしまいました。
医学知識があるせいで、自分のMRIを一目見て「あ、ここぽこっと膨らんでる…」と分かってしまったのがとても悲しい思い出です。
一番症状がひどかった時には、100メートル以上歩けなかったし、日常生活の様々な動作がきつくなり、入院したこともありました。
ペインクリニックに通ってブロック注射、痛み止めも使いまくり。

しかし僕は、「手術だけは受けたくない!!」の一心で、自分で治すことにしました。
だって、椎間板ヘルニアの手術は見たこと何度かあるけど、えぐいし、大変そうだし…。
リハビリ含めてほんとに辛そうなんですもん。
幸い今の世の中には「腰痛にはこれがいい」と紹介してあるものや、論文など、ありとあらゆる情報が溢れています。
医学知識と、自分の体でとりあえず試してみる好奇心で、ありとあらゆるものを試しました。
そして今、その長年の取り組みのかいあって、椎間板ヘルニアは手術せずにほぼ完治。
長時間手術後に「ちょっと腰きつい…」と思うときはありますが、それ以外の日常生活は全くもって問題ないくらいに治癒しています。

今日はとても長くなりますが、僕が外科医として腰痛治療にこれは効果的だった!と思うものをまとめてみようと思います。
題して「自力で椎間板ヘルニアを克服した外科医が教える、ガチの腰痛対策!」
僕は好奇心旺盛なので、いろんな方法が出てきますよー。

始める前に、1つ注意です。僕は医者なので。
一口に腰痛といっても、もちろんたくさん種類があります。
僕が経験しているのは、ぎっくり腰と椎間板ヘルニアなので、もっとやばい病気である腰部脊柱管狭窄症とか、すべり症、黄色靭帯骨化症とかではありません。
なので、自己判断で腰痛があるからこの手段を試してみよう…ではなく、あくまでもちゃんと「ぎっくり腰(急性腰痛症)」とか「椎間板ヘルニア」とか診断してもらってからにしましょうね。


時期による治療の違い

「腰痛」というと、時期が大まかに急性期とか慢性期とわけられ、それぞれに治療が違います。
そりゃそうです。めっちゃ腰の痛い急性期に、運動療法なんてしません。
でも、僕は治療法を推奨していくにあたって、もっと時期を細かく分けた方がいいと思っています。
なぜかというと、それぞれの時期にうまーく合った治療をしていかないと、痛みが慢性化してしまったり、なかなか治療が進まなかったりするからです。
なので僕は図に示しているように、超急性期、急性期、回復期、慢性期、維持期と5つに分けて、それぞれの時期にあった治療を継続しています。

1. 超急性期

ぎっくり腰でいうところの、「ぐきっとなった!」というやつですね。何度かなりましたが、もう二度と経験したくありません。
ひどい時にはトイレに歩いても行けません。
この時期の治療は、もう安静しかありません。
整形外科やペインクリニックで痛み止めをもらい、場合によってはブロックをしてもらい、2-3日絶対安静を心がけましょう。
腰をまっすぐにはできませんので、寝るときは横向きか、膝の下に枕を入れて寝ましょう。

2. 急性期

よちよちでも歩けるようになったら治療開始です!
ここでの治療注意事項ですが、大事な順に4つあります。

とにかく「痛い」と感じないようにすること
痛みは我慢するものではありません。
そして、最近の医学の考えでは、「痛みは神経に記憶として残る」とされています。
なので、薬を使っての除痛と、無理に痛みを感じる動きをしないというのが、急性期(1週間程度)の最も大事なことになります。
ロキソニン最高!(胃が悪い人は注意してね)

② 靴ひもはきつく結ぶ!サンダル厳禁!
これ、あまり知られていませんが、靴屋さんに教えてもらって世界が変わりました。
腰が痛いと靴をはくのにかがむのがきつくて、スリッパやサンダルにしがちです。
でも、これが余計によくない!腰に負担がかかります。
実際に靴屋さんで「靴ひもをこれくらいぎゅっと結んでください」と絞められたあと、歩くのがめちゃくちゃ楽になり、痛みがなくなったおかげであっという間に改善していきました。

③ コルセット
コルセットはとても腰の負担を軽減してくれます。
急性期も安静が必要なのですが、なかなか仕事を1週間も休んでいられません。
少しはムリをしないといけない時もあるのですが、そんな時に助けてくれるのがコルセットです。
虫の外骨格のように体を支えてくれます。
コルセットもいろんな種類がありますが、あんまり安かったり細いスポーティーなものを選ぶのではなく、なるべく広範囲に支えてくれる、医療用のタイプを選ぶといいです。

④ マッサージ、温熱療法、湿布など
高額ですが、マッサージを受けに行ったりするのはこの時期は効果があります。
(逆に言うと、数週間経過後の回復期になって、ひたすらマッサージに通ったりしたこともありますが、結局あまり効果は実感できませんでした)
オフィスで手軽にできるマッサージ器具、温熱器具なんかも多く販売されていますので、そういうのも何個か試しました。ないよりはいいかな…という感じです。

3. 回復期(リハビリ)

1週間を過ぎたら、だいぶ楽になってきます。
ここで大事なのは、「痛みを感じない運動域」をじわっと広げていくことです。

① プール歩行
スポーツジムはお金かかるのですが、健康にはかえられません。
最初は安く「プール会員」とかになって、プールで歩きましょう。
体重が軽くなる分、歩いても痛みはほとんど感じません。
普通に歩く時より「あ、痛くない…」となり、いつもより可動域が増していきます。
この、「痛くなく動かせる」という感覚がとても大事です。
1か月(プールに行くのは週2-3日)も続けていれば、歩行がぐっと楽になってきます。

② 減量
きついですが、これは大事。
痛いときこそ「もうなりたくない…」と思うので、モチベーションは保てます。
僕はおかし大好きですが、なんとかスナックの代わりにガムを噛みまくって耐え、今も別に痩せてはいませんが、おなかが出ているほどではありません。
あ、一つ大事なことを言っておきますが、底の丸い痩せる靴だけはやめておきましょう
あれは健康な人がするものです。
腰が悪い人がグラグラする靴を履くと危険です(実体験)。

③ 下半身の筋力増強(初級編)


stanショップ 楽天市場店より

腰が痛いときに触ってみていただきたいのが足の太ももの外側です。
その表面の筋膜がピッキピキに緊張していて、もみほぐすと気持ちがいいはずです。
腰痛の原因として腸腰筋などの立位筋が弱いことももちろんあるのですが、大腿の外側の部分の筋肉(外側広筋)が弱いことも大いに関連しています。
そして、腰が痛いときにいきなり腸腰筋を鍛えるのは難しいですから、まずは大腿の筋肉を鍛えていくと、痛みがぐっと改善してきます。
あんまりいろいろな運動をするのではなく、上の写真のようにふとももにつけてひたすら前後左右にカニ歩きする(腰を曲げてできるので痛くないのです)といいです。

④ コルセットからの卒業
コルセットは痛みを取ってくれますし、安心感はありますが、常時つけておくものではありません。
例えば長時間手術など、負担になりそうなときにはもちろんつけた方がいいのですが、日々の暮らしでずっとつけていると、普段から体を支えるための筋力が弱ります。
その分ちゃんと筋トレできる人はいいですが、そんな人ばかりではないですからね。
痛みを感じない程度になってきたら、段々コルセットは卒業する必要があります。

4. 慢性期

腰を痛めてから3か月以上たってくると、慢性期になります。
ここでまだ痛みがある人!
これはおかしいので、もし病院にまだかかっていなければ、絶対に病院に行きましょう。
そして、痛み止めは変更です。

① プレガバリン(リリカ)


神経因性疼痛に

痛みが慢性化している人は、「痛みの記憶」による痛みの可能性があります。
いわゆる昔からいわれる、「この時期になると節々が痛い」だの、「雨が降ると腰が痛い」というのは、コレです。
昔はそういう痛みに効く薬はなかった(というか、ほとんど知られていなかった)のですが、今はあります。
ちょっと眠気はくるけど、僕はこの薬を数か月飲んだだけで劇的に良くなった時期がありましたので、わりと信仰しています。

② 動的ストレッチ
痛みがなくなっている人でも、「この態勢になるときつい」とか、「この動作をするときが…」というのが大半だと思います。
そんな時、昔から「ストレッチをしなさい」と言われてきました。
僕もいろんなストレッチを試してきました。
主に股関節の可動性を上げるようなやつですね。
「股割りできるようになれば、腰痛はなくなる!」とか、「上半身がぺったり前につく人に腰痛はない!」みたいな本とか読んで頑張ってきました。
しかし、これらは長続きしませんでした。
痛いし。元々体硬いし。
こういうのって比較的女性向けなんですよね。
そんなある日、「可動域を上げるには、静的ストレッチより動的ストレッチのほうがいい」という情報を得ました。
最近ではこの情報はかなり知られるようになって、いろんな所で紹介されています。
頑張ってのびーっと腱などを伸ばしていくのが静的ストレッチなのに比べ、いわゆるラジオ体操みたいな軽く体を動かしていくことで筋肉をほぐしていくのが動的ストレッチと思ってください。
今やスポーツ医学では、激しい運動をする前に まず動的ストレッチ→運動→最後に静的ストレッチ というのが流れになっていて、先に静的ストレッチをするのはケガの危険が増すからやめましょうということになっています。
動的ストレッチですることは、「痛くない」と思う範囲で体を10分くらい軽く動かしていくだけ。
すると、「痛くない」範囲が徐々に増えていく。
…ほんまかいな?と思うかもしれません。僕もそうでした。
でも、結果的にはこれが一番効果があって、長続きしたのです。

③ 椅子スクワット
動的ストレッチをいきなりしろと言われても、どうしていいか分かりません。
腰痛がまだ残っている人に初級編としておすすめなのが、この椅子スクワットです。
僕は多分もう人生で1万回以上しています。
椅子に浅く腰掛け、足は肩幅程度に開いておいて、ゆっくり立ち上がります。
その時に、片手でもう片方の手の手首を持って、軽く上に伸ばす。そしてゆっくり座る。
これで痛みの出る人というのはかなり少ないはず。
これを10回1セットとして、朝夕の2回するだけで、ぐっと楽になってきます。

5. 維持期

痛みが治まって普通に歩けるようになると、油断しがちです。
痛みのない時期を維持し、もう二度とぎっくり腰にならないようにする、もしくはなっても軽症で済ませることがとても大事です!(力説)
何度も油断しては再発を繰り返したからこそ、ここは強調しておきます。
なので、普段から筋トレは必須です。

もう絶対に腰痛卒業したい!と思う人は、ちょっとお金はかかりますが、先ほど出たようにフィットネスのプールに行き、そこから筋トレを始めたらいいと思います。

でも、そんなのやっぱりハードル高いですよね。
家でちゃちゃっとできたら一番いい。
僕もそう思います。

僕がここ数年ずーっとお世話になっているのは、Switchのリングフィットアドベンチャー


リングフィットアドベンチャー

もちろん毎日なんてしてません。
1-2か月さぼることはざらです。
でも、「ちょっと腰しんどいな…」と思いだして、これを再開して数日~数週間すると、もうすっきり。
現時点では、僕が生きてきて2番目にゲームプレイ時間の長いゲームになっています(1位はスマブラ)。
多分他のこういうゲームが出ない限りは一生するような気がします。
別に任天堂の回し者ではありませんが、本当におススメです。

いろいろと腰痛対策を書いてきましたが、「これは書いてないな」というものもあると思います。
ビタミン剤とか、コ〇〇〇〇〇〇とか、〇〇とか…。
正直僕はほとんどすべてを試しています。してないのは手術くらいでしょうか。
書いてないということは…そういうことです。
腰痛はいろんな対処法があり、人それぞれだとは思います。
でも、僕が強調しておきたいのは、腰痛治療には「痛みを感じないようにする」ことが一番大事であり、時期に応じて治療していかないと、時間ばかりかかってしまうよ…ということです。
みなさんが腰痛にサヨウナラできるために、この経験談が役立ってくれると嬉しいです。

<参考>
なし


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