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嵯峨野綺譚~来訪者 ~

 「おい、彦九郎。久しぶりじゃの」
 「おっ、これは了以殿。大変ご無沙汰致しております。お元気でいらっしゃいまするか?」
 「おう、おかげさんでの。おぬしも息災か?」
 「はっ、おかげさまで。最近は排ガス規制のおかげでこの辺りの空気もずいぶんきれいになり申した」
 「そうか。それは何よりじゃ」
 「ところで了以殿、今日はまた何用で三条大橋くんだりまで?」
 「いやさ、ここ数年京都市内にもマンションが増えて、わしがおる嵯峨小倉山は亀山公園からおぬしの姿が見えんようになっての。どうしておるかと思うて。ま、他にも四条河原町の阪急百貨店が丸井に変わったとか、四条烏丸の三和銀行の建物がなくなっただの、四条界隈も随分変わったと聞くでな。ちょっと様子を見てこようと思っての」
 「そうでございますか。。。」(阪急も三和銀行もだいぶ前の話でござるがな。。。)
 「いつもここからわしの方にこうべを向けてキッと睨んでおるおぬしの顔が懐かしゅうての」
 「いやいや了以殿。それがしが顔を向けておるのは嵐山よりもう少し北、京都御所にございます」
 「まぁ、よいではないか。細かいことは気にせんでも。。。。しかし彦九郎、聞くところによると大阪はもっと凄いらしいの。北浜の緒方洪庵なぞは、すぐそばに30階建ての高層マンションが何本もできて、もうどこを向いても何も見えんとこぼしておったわ。昔は大阪城の天守閣がよう見えたのに。とな」
 「そうですか。。。ま、私ら京都の銅像はまだ恵まれているのかもしれませんな」

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