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【15冊目】独ソ戦 絶滅戦争の惨禍

【タイトル】

独ソ戦 絶滅戦争の惨禍 (岩波新書)

【著者】

大木 毅

【読む目的】

・あまり知らないヨーロッパ側の第二次世界大戦の流れを知りたい
・第二次世界大戦当時の独ソ両国のイデオロギーを知りたい

【印象に残った部分(引用)】

・独ソともに、互いを妥協の余地のない、滅ぼされるべき敵とみなすイデオロギーを戦争遂行の根幹に据え、それがために惨酷な闘争を徹底して遂行した点に、この戦争の本質がある。
・ドイツ国民の生活は、戦時下であるにもかかわらず、一九四四年に戦争が急速に敗勢に傾くまで、相対的に高水準を維持していた。彼らは、初期帝国主義的な収奪政策による利益を得ていることを知りながら、それを享受した「共犯者」だったのである。
・現在では、ナチス・ドイツは最初からユダヤ人絶滅を企図していたのではなく、国外追放が失敗した結果、政策をエスカレートさせていったとする解釈が定着している。
・ソ連にとっての対独戦は、共産主義の成果を防衛することが、すなわち祖国を守ることであるとの論理を立て、イデオロギーとナショナリズムを融合させることで、国民動員をはかった。

【感想】

第二次世界大戦で最も多くの死者を出した独ソ戦の最新研究をコンパクトにまとめた1冊です。
従来イメージする独ソ戦とは違う姿が見られ、大変興味深い1冊でした。

日本における独ソ戦を扱った書籍や作品は、1970年くらいの古い研究を元にしているとの事でした。
ドイツの優秀な兵士、兵器と作戦で順調に進行するも、補給不足とソ連の冬の寒さ、兵の数の多さで負ける。質のドイツ対、量のソ連というイメージでした。
ですが実像は、ドイツはソ連を過小評価して杜撰な作戦を立てていたこと、兵器の量質や作戦術に勝るソ連は過去の粛清による士官の不足に苦しんでいたことなど、知らなかった情報が多々ありました。
両軍ともに独裁者スターリンやヒトラーの非合理的な指令に苦しめられた、これはイメージ通りでしたね。

軍事的な部分の解説も豊富でしたが、最も印象的だったのは両国の戦争に対する姿勢です。
まずドイツは、ドイツ人を優良人種と位置付け、他国に勢力を拡大し、それに劣る他の民族を追放または奴隷のように扱うことを計画していました。
占領したソ連などの住民3,000万人をシベリアへ追放し、死に至らしめるという恐ろしい構想もありました。
また、戦争の準備・遂行にあたり、ドイツ国民の生活水準は終盤まで維持される続けました。他国からの収奪によってです。
このことから、筆者はドイツの蛮行はヒトラー個人によるものではなく、国民も共犯者なのではないかと指摘しています。

一方のソ連は、共済主義やスターリン独裁への不満もあった中で、共産主義の成果を防衛することが憎き侵略者の打倒に必要と宣伝し、上手く共産主義の肯定と愛国精神の醸成に持って行ったようです。ドイツ軍の残虐な行為がソ連を一枚岩にさせたという印象があります。
戦況が逆転すると、今度はソ連軍による苛烈な報復が行われます。

両軍ともに、侵略先の住民の扱いは劣悪なものでした。物資収奪はもちろん、強制労働、強制移住、追放、強姦、処刑…目を覆うような現実です。
住民の扱いを見れば、捕虜の扱いはどうだったか…語るまでもありません。

筆者曰く独ソ戦は通常戦争ではなく、「世界観戦争」と呼ばれるイデオロギーのぶつかり合いということでした。政治的妥協が不可能で、相手を滅ぼすまで終わらない戦争であると。
心底恐ろしく思いました。
同じ人間同士なのに、ここまで憎しみあい、非人道的行為ができるのかと。

他の戦争がましというつもりは全くありませんが、こんな対立が二度と起きてはならないと強く思います。
今ヨーロッパなど各地で排外主義なポピュリズム政権が生まれています。
特に反移民や、白人至上主義など、一部の主義主張は行き過ぎを感じます。
アフリカではしばしば独裁政権が少数民族を激しく弾圧しています。

独ソ戦のような凄惨な戦争が発生する芽は残念ながら世界中にあると思います。
国連のリーダーシップに期待したいところですが、民主主義すら世界の共通規範とはなっていない現状では、難しいでしょうか。
いつか、民主主義が世界共通の理念となること、他者の文化を許容する社会になること、両方が実現されることを望みます。

…取り急ぎできることとして、過度に大衆迎合的な政治家・政党には投票しないようにしたいと思いました。

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